これまでは、本邦では大腸狭窄に対する金属ステントは本邦で薬事認可も保険収載もなかったため、限られた施設での臨床研究として、食道用ステントの流用や、海外から大腸用ステントを個人輸入して手技が施行されてきた。しかし2011年7月にようやく米国製の大腸用ステントの薬事認可が承認され、2012年からは保険収載の上で、全国的に使用可能となった。
今までの本邦の報告や欧米の報告では、技術的成功率が9割以上、臨床的成功率も約9割程度と良好な成績が報告されている。また留置手技に関する合併症も少なく、穿孔率が0-4%、合併症全体でも2-10%程度である。また、緩和治療目的の場合には長期の観察で1割程度の再閉塞、1割程度の逸脱、4%程度の穿孔率が報告されているが、患者のQOLの向上からみれば十分許容範囲内であると思われる。しかし一部では、緩和治療目的のRCTで4割の穿孔率で前向きの研究が中止になった報告(van Hooft: Lancet. 2006)や、欧州での大腸癌イレウスに対する大腸ステント留置と緊急手術のRCTでもステント群での穿孔率(13%)の高さから研究の中断がなされており(Hooft JE, Lancet Oncol 2011)、大腸ステントの有効性に疑問が持たれている。ただ最近の同じ欧米での多国籍多施設の前向き研究では、穿孔率が1.2%で非常に低く安全な手技として認知されている(Perez J, AJ Gastroenterol 2011)。今までの本邦での報告でも穿孔率は2%で合併症は決して多くない(Saida Y, Surg Endosc 2011)。
大腸ステント安全手技研究会で、本邦での安全性に関するミニガイドラインの作成と、前向きの安全性確認の研究を通して全国的な大腸ステントの安全な手技の啓蒙を目指す箏は本邦の大腸悪性狭窄患者のQOLの向上だけでなく、世界への安全性情報の発信として意義は大きい。
現在までの大腸ステントの主な報告のまとめを当日は報告し皆様の参考していただきたい。
【はじめに】当院では左側大腸癌イレウスに対して、2006年より術前に気管用スパイラルZステント(MEDICO’S HIRATA)を留置し一期的な待機手術を行って来た。今回、保険収載されたWallFlex大腸用のステントを術前に4症例に留置したのでその挿入方法と結果を報告する。【挿入方法】内視鏡はオリンパスのCS H260AI、塩酸ペチジン静注及びCO2送気を使用。まず内視鏡下に腫瘍の肛門側に止血用のクリップにてマーキング。出来るだけ腫瘍を正面視し、内視鏡下にオリンパスの洗浄チューブ(PW-6P-1)を狭窄部に挿入後、狭窄部および腫瘍の肛門側を造影。造影所見を参考に内視鏡下及びX線透視下に0.035インチのガイドワイヤー(JagwireTMPlus・ストレートチップ、Boston Scientific)を狭窄部の肛門側に挿入。狭窄部の口側までステントデリバリーシステムを挿入し、まずはステントのフレア部分を開く。その後内視鏡とステントデリバリーシステム本体をしっかり手前に引っ張りながらステントをゆっくりと開いて行く。しっかり手前に引っ張らないとステントが狭窄部の口側に留置される。ステント留置後に腫瘍の生検を行う。留置直後および翌日に腹部単純XPを撮りステントの拡張の程度およびfree airの有無を確認。【結果】年齢は、47歳、54歳、71歳、77歳。男性3例、女性1例。癌の部位は、S状結腸2例、下行結腸1例、右側横行結腸1例。ステントのデリバリー方法は、TTS (Through-The-Scope)が3例で、1例は、経肛門イレウスチューブからの交換でOTW(Over-The-Wire)にて挿入。ステントのサイズは全例22mmx6cmを使用。挿入は全例に可能。術前、全例にガストログラフィンによる注腸または内視鏡にて口側病変の有無の確認可能。
本邦では根治手術が困難な場合や他の癌による大腸狭窄に対しては、姑息的な人工肛門造設術が行われてきたが、欧米ではSelf-expandable Metallic stent(以下SEMS)が広く行われている。2012年1月より本邦でも、大腸用SEMSが保険適応となり、今後さらに適応症例が増加すると思われる。今回、当院での閉塞性直腸癌に対するSEMS留置例を2例報告し、直腸SEMS留置におけるステントの特徴を考察した。
症例1は、70歳代男性。食事摂取困難を主訴に受診され、AV4cm に閉塞性直腸癌(Rb circ cAN1H2 P0M0 cStageIV)を認めた。手術を希望されなかった為、姑息的にSEMS(食道用Ultraflex 7㎝x18㎜)留置を行い狭窄を解除した。第1病日より食事摂取し退院となった。
症例2は、70歳代男性。便通異常を主訴に受診されAV10cmに直腸癌(Ras circ type2 cSSN3H0P0M1 cStageIV)を認めた。受診時大腸閉塞を認めたが、御本人が化学療法先行を希望されたため、SEMS(食道用Ultraflex 10㎝x22㎜)留置を行い狭窄を解除した。第1病日より食事摂取可能となった。
両症例とも肛門に近い症例であり、migration予防のために、non-cover SEMSを使用した。また排便機能温存のため肛門側が歯状線にかからないように慎重に手技を行った。大腸SEMSは、人工肛門造設術と比べると低侵襲で、肛門からの自然排便が可能であり、精神的・肉体的苦痛の軽減につながる。しかし、症例によっては挿入に難渋する場合もあり、留置の際は十分な検討が必要と考えられた。
【はじめに】大腸ステントは欧米で広く普及しているが、本邦では長年保険収載されなったため、一部の施設では食道用ステントや輸入の韓国製ステントが代用されてきた.今回WallFlex消化管ステントが術前の閉塞症状の解除、及び姑息的治療を適応として保険収載されたことを受け、これから多くの患者に福音をもたらすと考えられるが、ステント留置後の化学療法やこれまで本邦で行われてきた経肛門イレウス管減圧術との使い分けなど問題点も多い.当院において、2例(姑息的治療を1例、術前減圧治療を1例)にWallFlex消化管ステントを使用したため私見を含めて報告する.
【姑息的治療例】58歳女性、胃癌腹膜播種による直腸Ra浸潤狭窄.排便困難、腹部膨満の症状があり、CT検査にて直腸閉塞と診断した.6cm長、20㎜径のWallFlexステント(本症例はIRB承認された胃十二指腸用を病院負担で使用)を挿入留置した.技術的、臨床的成功を得て、開存期間238日と死亡されるまで再閉塞やステント逸脱は認めなかった.
【術前減圧治療】75歳男性、排便困難、腹部膨満、嘔気を主訴に来院された.CT検査により肝彎曲部の大腸閉塞と診断した.同日経鼻イレウス管を挿入し、3日後に下部消化管内視鏡を行い、同部位に高度の狭窄を認め9cm長、22㎜のWallFlexステントを挿入したが、展開時に口側に逸脱したため再度同ステントを挿入し、技術的、臨床的成功を得た.ステント留置17日後に腹腔鏡下右半結腸切除術を施行された.(tub1, ss, ly0, v3, pN0, fStageⅡ, 根治度A)
本邦において大腸悪性狭窄症例に対して大腸専用ステントWallFlex Colonic Stent(以下CS)(Boston社製)が保険承認された.当科にて同ステントを姑息的治療として4例に使用したので報告する.
【症例1】60歳,男性.53歳時,直腸癌手術.2年後,肺肝に転移性再発し,4年間化学療法継続したが腹膜播種による吻合部を含む直腸S状部の8㎝の全周性狭窄を認めた.十二指腸用ステントを挿入するも狭窄解除せず,ステントインステントにて6㎝,径22mmのCS留置.以後,症状緩和し術後11日目に化学療法再開し現在継続中.
【症例2】63歳,男性.肺,肝に遠隔転移を伴う上下部直腸の2型全周性癌性狭窄によるイレウス発症.入院翌日,9㎝,径22mmのCSを留置.直後から排便を認め,1週間後に化学療法を開始.初診から2ヶ月経過した現在,外来化学療法を継続中.
【症例3】33歳,男性.肝内胆管癌,腹膜播種の診断で1年間化学療法されたが、腹膜播種による上部直腸の狭窄のためイレウスとなり,9cm,径22mm CSを留置.イレウス解除後,PS3から1に改善したが急性閉塞性化膿性胆管炎を併発し留置後1ヶ月で永眠.
【症例4】89歳,男性.十二指腸潰瘍で幽門側胃切除術の既往あり3年前,残胃癌に対して残胃全摘されるも脾彎曲横行結腸に腹膜播種再発による4㎝の全周性狭窄をきたしイレウス発症.経鼻イレウス管で減圧後,12㎝,径25mmのCSを経内視鏡的に留置.3日目にイレウス管は抜去可能となった.
【まとめ】大腸癌1例,腹膜播種3例全例に偶発症を認めず、安全に大腸ステント留置が可能であった.本法は,症例を選択すれば、腹膜播種による狭窄解除にも有用性が期待される.
自己拡張型金属ステント(Self Expandable Metallic Stent: SEMS)療法は広く普及してきたが、大腸ステントは安全性が危惧されていたが、この度ようやく保険適応となった。大腸狭窄に対するSEMS療法は、大腸癌イレウスの際の術前一時的留置と、緩和治療として施行される姑息的留置にわけられる。今回、切除不能大腸癌局所再発によるイレウス症例に対し、SEMS療法を施行し良好な結果を得た1例について、当科におけるSEMS療法の成績とともに報告する。症例は40歳代女性。2007年10月、S状結腸癌に対し前医にてS状結腸切除術を施行された。2009年2月に左卵巣転移に対し左卵巣摘出術を施行され、その後各種化学療法を施行されていたが、2011年6月に左腸腰筋再発をきたし放射線治療を施行した。2011年10月には局所再発によるイレウスを発症し、切除不可能と診断され、前医にて経肛門的減圧チューブを留置されたが、減圧効果が乏しくまたチューブ留置による苦痛が強いことからSEMS療法目的で紹介となった。デバイスはWallFlex TM (口径22mm 、長さ90mm)を使用し、術中合併症なく、ステント留置後すみやかに排便を認め、症状の軽減はもとよりチューブフリーとなったことで患者満足度は高かった。
4か月経過した現在、再狭窄や逸脱などの合併症は認めておらず経過良好である。人工肛門造設や、経鼻もしくは経肛門的減圧チューブ管留置などといった苦痛を伴う処置を回避し、患者QOLの向上につながることから大腸においてもSEMS療法の果たす役割は大きいものであると考える。
【症例】63歳 女性。検診で便潜血陽性のため当院で下部消化管内視鏡検査(CF)施行。S状結腸(肛門縁より30cm)に全周性2型病変を認めた(中分化型腺癌)。その5日後に腹痛を訴え来院。CTで同部の閉塞性大腸癌と診断され、緊急入院となった。口側腸管は径5-6cmの拡張であった。保存的に多少の改善は認めたものの(亜閉塞症状)、絶食を余儀なくされるため、第3病日に大腸ステントを留置した。留置後2日目より流動食開始、その後step upした。便は酸化マグネシウムで泥状化した。留置後排便・排ガスは良好であり、口側腸管の拡張は消失した。しかし、ステントの違和感・刺激による蠕動痛を認めた。症状はブスコパンでコントロールし、留置後12日目に退院、18日目に手術が予定された。【挿入手技】透視下に注腸検査を施行し、S状結腸に狭窄部を確認、狭窄長は4-5cmであった。次に内視鏡で腫瘍を確認した。腫瘍肛門側にクリップし、狭窄部に0.025inch Jagwireを通過させた。内視鏡抜去後、透視下ワイヤーガイド下に22mm/9cmステント(WallFlex)を留置した。留置後に腫瘍部を洗浄し細胞診施行(adenocarcinoma)。3日後のXpではステントの拡張良好であった。
【検討課題】ステント口側端と腫瘍口側端の位置関係の把握をどうするか。組織診断はステント留置後では困難であるが、洗浄細胞診でも代用できると考える。ステントの違和感に対してはブスコパンによる対処でよいのか。【まとめ】当院における初のステント留置を経験したので報告する。
【目的】 悪性大腸狭窄に対するSelf-Expandable Metallic Stent(SEMS)留置術の有用性を検討する。
【方法】2006年2月から2012年2月の期間にSEMSを留置した44例(平均年齢 72歳、男女比27:17、大腸癌27、膵癌8、胃癌4、胆嚢癌2、十二指腸癌1、膀胱1、子宮頸癌1)で、狭窄部位は左側25例、右側19例であった。
【結果】施行目的は姑息的留置37例、Bridge to surgery(BTS)7例。使用したSEMSはNiti-S stent uncovered type 39例、WallFlex Colonic Stent 5例。手技的成功100%、臨床的成功93%で、ステント閉塞および症状をともなった逸脱をeventとした開存期間はKaplan-Meier method で平均開存期間は328.8日、平均生存期間は238.5日であった。手技関連合併症は認めず、留置後のStent不全は12例(Tumor ingrowth 6例、便塊 2例、拡張不良2例、Overgrowth 1例、Kink 1例)で、10例が内視鏡的re-interventionにより再開通した。
Kinkは胃癌腹膜播種による脾彎曲部閉塞に対するWallFlex留置例で、拡張不良は胆嚢癌腹膜播種によるS状結腸閉塞に対するNiti-S留置例と膵癌直接浸潤による脾彎曲部閉塞に対するWallFlex留置例で、いずれも原発性大腸癌以外の症例かつ腸管屈曲部閉塞例であった。
偶発症は穿孔0例、逸脱1例、出血4例であり、全例が保存的に軽快した。BTSの全例が一期的な手術が可能となり、人工肛門の造設は不要であった。
【考察】 悪性大腸狭窄に対するSEMS留置術は、姑息的、BTS双方に対し安全かつ有用である。しかし、原発性大腸癌以外の症例や、屈曲部閉塞例に対する留置方法については、今後症例を蓄積し、検討していく必要があると考えられた。
【はじめに】これまで、根治手術が不可能な大腸癌によるイレウスに対しては、人工肛門造設が行われることが多かったが、平成24年1月より大腸ステントが保険収載された。今回化学療法中のStage IV直腸癌によるイレウス症例に対し大腸ステントを留置し良好なQOLを得ることができたので報告する。
【症例】64歳、女性。2010年12月より直腸癌、同時肺転移に対してFOLFOX+BV療法を開始。2011年8月よりFOLFRIに変更し化学療法を施行中であった。2011年12月下旬、腹部膨満を主訴に受診し、イレウスの診断にて入院。腹部CT検査では、直腸RSの不整な壁肥厚と口側腸管の拡張を認め、原発巣の増悪によるイレウスと診断した。また、両肺には数mmから1.5cm程度の結節を多発性に認めた。経肛門的イレウスチューブを挿入し、減圧を行った後、透視および内視鏡下に経22mm長さ90mmのSelf-expandable metallic stent (WallFlex Boston scientific) を留置した。術中および術後合併症もなく、術後2日目より食事を開始し、術後9日目に退院。ステント留置後27日目より化学療法を再開した。術後約2ヶ月を経過したが、通過障害は認めていない。
【結語】直腸ステントは、低侵襲で、良好なQOLを得ることができ、根治切除不能な直腸癌によるイレウスの解除に有効であると思われた。
大腸狭窄に対するステント留置は、ほとんどの場合、内視鏡を使用しなくとも可能であり、内視鏡のできないIVR医の多くは、X線透視台上でのカテーテルとガイドワイヤーの操作のみでこれを行なっている。技術的な特徴は、Seeking catheterと呼ばれる先端にカーブのついたカテーテルとガイドワイヤーとのコンビネーションにより、造影剤注入下に大腸内を逆行性に進み、狭窄部を突破する点である。狭窄部突破後のバルーン拡張やステントの留置手技は内視鏡の場合と同様である。
内視鏡による方法との大きな違いは、①造影により大腸の全体像を把握しながら行なう点、②送気が不要なため大腸が拡張していない状態で狭窄部を突破する点であろうと思われる。狭窄部突破の成功率について内視鏡と比較したデータはないが、「内視鏡で突破できない」とされた狭窄をいとも簡単に突破した経験は少なからずあり、「内視鏡使用に比べ突破の成功率が低いことはない」というのが率直な感想である。ただし、ステント留置に伴う出血や粘膜の変化などを確認できない点は、弱点と言える。また、脾彎曲より口側への留置は難しい場合が多く、報告はあるもののIVRによる一般的な処置の対象は脾彎曲より肛側と考えられる。適応は内視鏡の場合と同様であり、術前処置、ならびに人工肛門造設の適応のない症例に対する緩和処置が対象とされている。
JIVROSG(日本腫瘍IVR研究グループ)で行なわれた緩和処置としてのIVRによるステント留置についての第Ⅱ相試験 (JIVROSG-0206)では、33症例に対してステント留置が試みられ、技術的成功率97%、症状緩和効果81.8%であった。有害事象としては、原病の進行による死亡3例、肛門痛のためのステントの抜去1例、他部位での再閉塞1例が見られ、またgrade 2-3の有害反応として、下痢12例、疼痛5例、出血1例、排尿困難1例が見られたが(重複あり)、重篤なものはなかった。生存期間中央値は91日であった。(Am J Clin Oncol 35:173-76)
IVR手技による大腸ステント挿入は安全に施行可能であり、十分な実行性を有す。内視鏡的手技との棲み分けを特に厳格に行なうことの意義は乏しく、患者や病巣の状況、術者の技術、施設の環境などに応じて柔軟に活用すべき相補的な手技と理解すべきである