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ミニガイドラインの解説
東邦大学医療センター大橋病院 外科
〇榎本俊行、高林一浩、斉田芳久
大腸狭窄に対するステント療法は、本邦では、2012年に保険収載され、全国的に徐々にその症例数を増やしてきている。
しかし、挿入時には、穿孔、逸脱などの偶発症も時として認められ、治療に難渋することがある。そのような合併症を避けるためには、施行時に安全にステントを留置することが肝要である。
大腸ステント安全手技研究会では、ホームページに大腸ステント安全留置のためのミニガイドラインを掲載し、安全な留置方法を推奨してきている。今回、ミニガイドラインにそって、大腸ステント留置のポイントをご紹介する。
大腸ステントの適応は、緩和治療目的の大腸悪性狭窄に伴う腸閉塞の解除または手術を目的とした大腸癌イレウスの術前の狭窄解除であり、留置部位は、全大腸で可能ではある。しかし、ステント形状を考えると回盲部と下部直腸の留置には注意が必要である。
また、われわれが推奨する安全な留置のための主なポイントは以下の通りである。
- 留置は良好な視野で、出血などで視野不良の場合は無理しない。
- 鉗子孔使用のステントでは大腸内視鏡使用の下、必ず透視下で施行し、留置前のガイドワイヤー通過は必須である。
- 狭窄部位のバルーン拡張やブジーはおこなわない。
- 必要に応じて狭窄部位の肛門側にマーキングを。
一度、偶発症を起こすと、患者のQOLだけでなく、生命予後にも影響を及ぼすので、十分な検討とICを行い、さらに、慎重な留置が行われることが重要である。
今後、患者・医療従事者に優しいこの大腸ステント留置術が普及するには、出来る限り偶発症を減らすことが望ましい。手技に慣れた内視鏡医と偶発症にすぐ対応できる外科医がいる施設で行い、安全な大腸ステント留置ができる環境が望まれる。
当日はより詳細に各手技について説明する。
2
大腸閉塞スコア(CROSS)の解説およびPalliative症例での有用性の検討
東京大学 消化器内科
1)、東邦大学医療センター大橋病院 外科
2)
〇吉田俊太郎
1)、佐々木隆
1)、榎本俊行
2)、伊佐山浩通
1)、斉田芳久
2)
1991年に、Dohmoto Mらが大腸閉塞に対するself-expanding metal stent(SEMS)の最初の留置を報告して以降、欧米において、内視鏡的大腸ステント留置術はpalliativeおよびbridge to surgery(BTS)の目的で広く行われるようになった。日本でも2012年1月よりその手技が保険収載され、2012年5月には、日本消化器内視鏡学会の附置研究会として大腸ステント安全手技研究会が立ち上げられた。本研究会の目的は、安全な大腸ステント留置術のための、手技法のコンセンサスの確立とその啓蒙活動であるが、同時に、実際の留置症例のおける安全性前向き観察研究を2012年6月より開始している。そのような中、
臨床の現場においてはその手技の技術的な問題のみならず、留置されたSEMSの有効性を評価する方法がないことに直面し、その指標となるスコアーの必要を痛感した。上部においては、Douglas Gらが考案した胃十二指腸排出路におけるThe Gastric Outlet Obstruction Scoring System(GOOSS)がその簡便性から、広く汎用されている。しかし、大腸閉塞においては、同様のスコアーは存在しない。Nagula Sらの考案したスコアーもその複雑さゆえ、汎用されるには至っていない。今回我々は、臨床現場での簡便性を第一に、ステントの有効性を評価するためにThe ColoRectal Obstruction Scoring System(CROSS)を考案した(下表)。研究会のホームページで公表後、コメントを公募し、若干の修正を加えた。今回、東京大学でステント留置を行った症例を対象に、その有用性を検討したので報告する。主にPalliativeの症例での問題点をもとに、その使用の実際を討議したい。

* 完全流動食とは、ストローなどで飲める状態のものを指す
† 狭窄症状とは、食事により引き起こされる、腹痛、腹部膨満、悪心、嘔吐、便秘および下痢を指す)
3
大腸ステント症例における大腸閉塞スコアCROSSの有用性の検討
東邦大学医療センター大橋病院 外科
〇髙林一浩 斉田芳久 榎本俊行 大辻絢子 中村陽一 長尾さやか 渡邊良平 長尾二郎 草地信也
現在大腸狭窄・閉塞に対する評価方法は確立しておらず、大腸ステント安全手技研究会では大腸閉塞スコアCROSS(colorectal obstruction scoring system)を提唱している。その内容は0継続的な腸管減圧を要する、1経口摂取不能、2水分摂取可能、3食事摂取可能で腸管狭窄症状あり、4食事摂取可能で腸管狭窄症状なしである。CROSSの有用性を検証するために、2001年から2012年8月までに閉塞型大腸癌の術前処置(Bridge to surgery : BTS)として金属ステント(Expandable Metalic Stent : EMS)留置術を施行した66例について、各症例のCROSSをretrospectiveに検討した。臨床的成功(閉塞解除成功)例は59 / 66例:89.4 %、臨床的不成功例は7 / 66例:10.6 %であった。成功例のCROSSはステント留置前後で全例が改善しており、90 %が0から4へ改善していた。一方不成功例のCROSSは留置前後で71 %が改善を認めない結果となり、CROSSは大腸ステントBTS症例で有用であった。
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当院における大腸癌イレウスに対する術前金属ステント留置術の有用性について
医療法人 彩樹 守口敬任会病院 外科
1) 内科
2)
〇島田 守
1)、鄭 賢樹
1)、植野 吾郎
1)、谷浦 允厚
1)、金沢 景文
1)、竹原 寛樹
1)、
高山 昇一
1)、杉本 聡
1)、西原 政好
1)、丸山 憲太郎
1)、権 五規
1)、李 喬遠
1)、
岡 博史
1)、恩田紗緒里
2)、高尾美幸
2)、阪口正博
2)
【はじめに】当院では、大腸癌イレウスに対して術前に金属ステント留置を行い、一期的な待機手術を行っているのでその治療成績を報告する。【対象】2006年7月より2012年12月までに金属ステント留置を試みた大腸癌67症例。年齢:35歳から86歳(平均66.7歳)。性別:男性36例、女性31例。【方法】2006年7月から2011年10月までは気管用Spiral Z Stent、2011年11月よりWallFlex Colonic Stentを使用した。
【結果】ステント挿入部位は,上行結腸1例、横行結腸5例,下行結腸14例,S状結腸34例,直腸12例(RS 7例、Ra 4例、RaRb 1例)、HAR後の吻合部1例。ステント留置は,67例中63例(95.%)に成功。不成功の原因はガイドワイヤーによる腸管穿孔及びガイドワイヤー挿入不可能が各2例で、全例緊急手術を施行。ステント留置成功例の内、ステントの位置不良、ステント留置後穿孔、ステント留置後閉塞により緊急手術となった症例が各1例、化学療法、CRTになった症例が各1例、治療拒否にて自己退院が1例あり、待機手術が可能であったのは63例中56例(88.9%)。ステント留置成功例では経口摂取を開始し、全身検索を施行。手術までの平均日数は,11.6日。大腸癌の深達度(吻合部再発、化学療法、自己退院例を除く65例)はA/SS 39例,SE 17例,SI 9例。進行度(吻合部再発,自己退院例を除く66例)はStag II 22例、Stage IIIa 13例、Stage IIIb 3例、StageIVが28例。待機手術例では、56例54例(94.6%)で一期的な待機手術が可能。縫合不全は1例(1.8%)。腹腔鏡補助下手術を、2010年より17例に行った。緊急手術例の一期的吻合は、7例中1例(14.3%)のみに施行。
【結語】大腸癌イレウスに対する術前経肛門的金属ステント留置術は、減圧および留置後の患者のQOLが良好で有効な手技であった。
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県立広島病院における大腸癌イレウス手術症例の検討
県立広島病院 消化器外科、消化器内科
〇池田 聡、高倉有二、平賀裕子、渡邊千之、隅岡正昭、今岡祐輝、真島宏聡、溝田志乃理、沖本将、野間翠、大原正裕、大石幸一、小橋俊彦、札場保宏、石本達郎、眞次康弘、中原英樹、漆原貴、板本敏行
大腸癌イレウスに対する対応として以前は経肛門的イレウス管挿入による減圧を行ってきた。最近は同様の症例に対しては大腸ステントを留置している。2010年以降の大腸癌イレウス手術症例で、経肛門的イレウス管を挿入した8例(イレウス管群)と大腸ステントを挿入した9例(ステント群)に関する検討を行った。
ステント群は9例中5例が一旦退院していたのに対しイレウス管群は全例手術まで入院しており、減圧処置実施から手術後退院までの実入院日数は有意差を持ってステント群が短かった(中央値22 vs 46日)。手術直前のCROSSスコアーはイレウス管群は全例2点であったのに対し、ステント群はステント逸脱をきたした1例が2点、残り8例が4点であった。手術までの減圧処置によると思われる合併症はイレウス管群では認められなかったが、ステント群では1例に穿通を、1例に逸脱を認めた。手術までの期間は両群間に差は無かったが(中央値17 vs 18日)、手術時の肉眼的閉塞性腸炎所見はイレウス管群では8例中7例で腸炎所見が存在したが、ステント群では9例中4例で腸炎所見を認めなかった。イレウス管群では8例中4例にストーマが造設され、ステント群では9例中1例にストーマが造設されていた。手術術式ではイレウス管群は8例中7例で腹腔鏡手術が試みられそのうち完遂は4例であった。ステント群は4例に腹腔鏡手術が試みられ完遂は3例であった。
合併症への配慮は必要であるが、大腸癌イレウスに対するステントによる減圧は絶食が不要となり、閉塞性腸炎の頻度や程度を軽減し、ひいてはストーマ造設の頻度を低下させうる可能性が示唆された。これらはいずれも患者のQOLを向上させると考えられた。
6
当院における大腸ステント手技成績とBridge to surgeryの有用性
名古屋第二赤十字病院 消化器内科
1)、一般消化器外科
2)
○山田智則
1)、長谷川洋
2)、折戸悦朗
1)
【目的】大腸ステント留置術の手技的な成績や問題点を検証し、特にBridge to surgery (BTS) に焦点を当てて報告する.
【方法】2012年1月から2013年2月までに当院にて閉塞性大腸癌31例が診断され、15例(男性11例、女性4例、年齢39-88歳、中央値74歳)に大腸ステント留置を試みた.大腸閉塞の診断は、減圧術前のCTにより評価された.閉塞部位は上部直腸 3例、直腸S状部 1例、S状結腸 1例、下行結腸 6例、横行結腸1例、肝彎曲部2例、上行結腸 1例.
【成績】15例(100%)に技術的成功が得られ、手技に関連した偶発症は経験しなかった.1例目の肝彎曲部症例では、1本目のステント展開時に狭窄部口側に逸脱したため、2本目を追加した.その他の症例では1本のステントのみ使用した.BTS対象の7例は、全例(100%)に待機的手術が施行され、1例は開腹、6例で腹腔鏡下結腸切除を施行された.人工肛門造設はなかった.深部結腸異所性病変の検索については、3例は注腸検査で3例は内視鏡にて観察し、内視鏡群の2例に異所性病変を認めたため予定術式が変更となった.ステント留置後より手術までの期間は中央値19日間(範囲 13から35日).術中所見としては明らかな穿孔を認めないが、1例ステント端による潰瘍を認めた.術後合併症は認めなかった.
【結論】悪性大腸狭窄に対する大腸ステント留置術は、高い成功率と安全性を示した.特にBTSにおいては、待機的腹腔鏡下手術を可能にし、深部結腸における異所性病変の検索に有用である.
7
BTSにおける大腸ステントの有用性
独立行政法人 国立病院機構 相模原病院 外科
○細谷智 金澤秀紀 坂本友見子 根本昌之 石井健一郎 井上準人 金田悟郎
2011年7月に米国製の大腸用ステントの薬事認可が承認され、2012年からは保険収載の上で、大腸ステントが使用可能になった。当院では2012年10月より大腸癌患者のイレウスに対し、大腸ステントを使用し始め、Bridge to surgery(BTS)に6例、姑息的治療として2例に行い、緊急手術を要するような合併症は起こっていない。
大腸ステント安全留置のためのミニガイドラインに則り、大腸悪性狭窄に伴う腸閉塞の解除の目的に行っており、直腸は適応外とし、回盲部の狭窄は造影を行い、ステントを留置できるか判断している。使用するステントはボストン・サイエンティフィック社製ウォールフレックス大腸用ステントを用い、サイズは設置時に狭窄長を測定し決定している。処置はCアームを用いた透視下で行い、穿孔させないため、ステント留置前の拡張術は行っていない。ステントは狭窄の口側まで挿入しフレアー部分を拡張させたまま、ステントを引き狭窄の口側縁に引っ掛けるようにしつつ、ステント全体を拡張させる。引きながらステントを拡張させる事により正確な位置に留置できると考えている。留置後、狭窄部を造影し穿孔の有無を確認している。処置後は充分な経過観察を行い、翌日に単純レントゲン写真でステントの位置を確認している。イレウスが解除されれば速やかに経口摂取を開始し手術までは1週間以上空けている。ステント留置に伴う合併症としては、保存的治療で改善した出血を1例で認めたが、穿孔、migration、再閉塞は認めなかった。
BTSを行った6例のうち、上行結腸癌1例、横行結腸癌2例、S状結腸癌3例で全症例に腹腔鏡下手術を行う事が出来た。しかしながら、ステントによるものや、腫瘍因子により術中の操作に工夫が必要な場合もあり、術中のビデオを供覧する。大腸ステントによりイレウス解除目的の緊急手術を回避し、当院で行っているERASプロトコールを導入する事が出来た。術後SSIを発症した1例を除き、術後6~10日で退院しており、ステントを必要としない症例とほぼ同等の成績を得られている。長期予後に関してはRCTの結果に期待したい。
8
Bridge to surgery目的の大腸ステント留置が有用であった左側大腸癌イレウスの2例
高知医療センター 消化器外科
1)、消化器内科
2)
○寺石 文則
1)、尾崎 和秀
1)、公文 剣斗
1)、
石川 紋子
2)、大西 知子
2)、森田 雅範
2)、
志摩 泰生
1)、中村 敏夫
1)、西岡 豊
1)
左側大腸癌イレウスの術前腸管減圧法として、2012年の保険収載以降、大腸ステント留置が選択肢のひとつとなっている。今回われわれは左側大腸癌イレウスに対し大腸ステント留置による減圧後、待機的に根治切除を施行した2例を経験したので報告する。
【症例1】67歳、男性。便潜血陽性で発見されたS状結腸癌で当院紹介予定前に腹痛が出現し、救急外来受診。S状結腸癌イレウスと診断され、入院後に大腸ステント留置を施行する方針とした。大腸ステント留置時所見:肛門縁より約30cmのS状結腸に全周性の2型病変を認め、狭窄をきたしていた。病変部より口側にガイドワイヤーを挿入し、Over-The-Wire法で外径25mm、長さ6cmのWallFlexTM大腸用ステントを留置した。内視鏡処置中、特に偶発症はみられなかった。大腸ステント留置直後より排便、排ガスを認め、腹部膨満感は速やかに消失し、2日目より経口摂取を開始し、5日目に退院となった。ステント留置後18日目に腹腔鏡下S状結腸切除、D3リンパ節郭清を施行した。病理組織検査でStageⅢaと診断され、現在外来でcapecitabineを用いた術後補助化学療法を施行中である。
【症例2】63歳、女性。腹痛精査で下行結腸癌イレウスを診断され、入院後に大腸ステント留置を施行した。大腸ステント留置時所見:下行結腸に全周性の腫瘍性病変を認め、狭窄のため内視鏡は通過できなかった。病変部より口側にガイドワイヤーを挿入し、Over-The-Wire法で外径25mm、長さ9cmのWallFlexTM大腸用ステントを留置した。大腸ステント留置直後より排便、排ガスを認め、留置翌日より経口摂取を開始し、4日目に退院となった。ステント留置後12日目に開腹結腸左半切除、D3リンパ節郭清を施行した。病理組織検査でStageⅡと診断され、現在再発の兆候なく外来経過観察中である。
9
Bridge to surgery大腸ステント留置後潰瘍に関する病理学的検討
大崎市民病院消化器科
○尾花伸哉 高橋靖 佐藤雄一郎
【目的】大腸ステント留置術後に発生する非癌部粘膜の潰瘍(ステント潰瘍)の特徴について病理学的に検討し、留置術後の留意点を明らかにする
【方法】平成24年に悪性大腸イレウスを発症し、BTSとして内視鏡的ステント留置術を施行した8例について、手術標本の病理学的検討を行い、臨床経過や画像所見との照合を行った。
【結果】全例ステント留置後の経過は良好で、一期的な腹腔鏡下切除術を行うことができたが、3例に固有筋層が断裂するような深いステント潰瘍が確認された。3例ともS状結腸にステントが留置された症例で、うち2例は留置術直後から腹痛の訴えがあった。留置時の透視所見から、強いカーブを描く部位への留置となった場合に、ステントが直線化することでステント端が腸管につきささるような状態となり、深いステント潰瘍を形成する可能性が高いと考えられた。3例中2例はステント端が腸管外に露出していたが、腸液漏出による腹膜炎所見を認めない、いわゆるsilent perforationであった。病理所見では、深いステント潰瘍周囲に肉芽組織が確認され、留置後比較的早期に発生した潰瘍と推察された。
【結論】大腸ステント留置術は、低侵襲で留置後速やかに腸管減圧が図れる患者QOLが良好となる治療法であるが、ステント潰瘍を形成する可能性があることを留意すべきである。ステント潰瘍はステント留置後早期に発生し、①強いカーブを描く部位への留置 ②留置術後疼痛有 の症例が深いステント潰瘍の高危険群であると考えられた。BTSではステント潰瘍は臨床的に問題とならないが、手術適応のない長期留置例では出血や穿孔などの潰瘍合併症に注意する必要がある。ステントを留置したまま抗がん剤治療を行う際には、例え無症状であっても深いステント潰瘍が存在する可能性に留意し、中でも創傷治癒機転に影響を与える可能性が高いとされるbevacizumabのステント潰瘍高危険群への使用は慎重であるべきと考えられた。
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Bridge to surgeryイレウスで発症した大腸癌に対する大腸ステント留置の経験
日赤和歌山医療センター 消化器内科
〇三長孝輔 野口未央 山下幸孝
【背景と目的】悪性大腸狭窄に対する大腸ステントが保険収載されたことを受け,当院でもイレウスで発症した閉塞性大腸癌に対する大腸ステント留置を導入,これまで11例に留置した.その使用経験を元に治療成績,有効性につき検討した.
【対象と方法】2012年5月以降当院で腸閉塞症状を有する大腸癌に対し大腸ステントを留置した11例を対象に,平均年齢,性別,閉塞部位,ステントの種類,ステント挿入期間,経口摂取開始までの時間,留置時/留置後の合併症の有無,留置後の治療/転帰につき検討した。
【結果】11例の平均年齢は74.3歳(56-91歳),男性8例/女性3例.閉塞部はS状結腸6例,下行結腸3例,横行結腸2例.ステント径は全て22㎜を使用,ステント長は狭窄長や留置目的を考慮し,9cmを7例,6cmを3例,12cmを1例で選択した.留置時の合併症はなく,留置後平均1.3日(1-3)で食事を再開できた.Bridge to Surgery留置は7例で,手術までの期間は平均13.7日(8-20),手術は腹腔鏡6例,開腹1例.開腹の1例は予定手術前に腹痛を認め,消化管穿孔疑いで緊急手術を施行した症例で,ステント遠位端に深い潰瘍形成を認めた.Palliative therapy留置は4例で,3例は経過観察となり,1例は化学療法を開始し,合併症なく経過している.
【考察】大腸ステント留置は,狭窄部をガイドワイヤーが通りさえすれば,留置手技自体は容易で,内視鏡下に挿入するため近位結腸でも留置可能であり,人員の少ない夜間緊急の状況等でも比較的安全に留置可能であった.留置後早期から食事摂取可能となり減圧効果は良好で患者のQOLの向上が得られるとともに,経肛門イレウス管のように留置後の洗浄を繰り返す必要はなく管理が容易で医療者側のメリットも大きい.一方,1例でステント遠位端に固有筋層を超える深い潰瘍形成を認めており,目的や閉塞部位(ステントのaxial forceが大きく,特に屈曲部の留置には注意が必要)に応じて留置するステントの種類を慎重に吟味する必要がある.
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Bridge to surgery大腸ステント留置後に深部大腸を観察し得た2例
がん・感染症センター都立駒込病院 消化器内科
1),大腸外科
2)
○田畑拓久,桑田 剛
1),松本 寛,山口達郎,高橋慶一
2),小泉浩一
1)
閉塞性大腸癌に対するBridge to surgery(BTS)としての大腸ステントは、術前の減圧処置として有用であるばかりでなく、経肛門的イレウス管に比べ、経口栄養による栄養状態の改善や患者のQOL維持を見込める点で優れた治療法と言える。これに加え、ステント治療後に内視鏡を用いた深部大腸の観察が可能となればその臨床的意義は極めて大きい。今回我々は大腸ステント留置後、術前に細径内視鏡を用いて深部大腸を観察し得た2例を経験したので報告する。
症例1は56歳,男性。進行S状結腸癌に対するBTSとしてWallFlex Colonic Stent (22mm/6cm)を留置した。治療後3日目の腹部単純写真でステントが十分に拡張していることを確認し、同日より食事を開始した。治療後10日目、大腸内視鏡検査にて全結腸観察を行い、上行結腸と横行結腸に小ポリープを認めるのみであった。一旦退院の上、ステント治療後21日目に待機的手術が行われた。症例2は71歳,男性。進行S状結腸癌に対するBTSとしてWallFlex Colonic Stent (22mm/6cm)を留置した。翌日の腹部単純写真でステントが十分に拡張していることを確認し、治療後3日目、大腸内視鏡検査にて全結腸観察を行った。ステント口側より20cm以内に最大10mmまでのポリープが3個認められ、一部は粘膜内癌を疑わせる病変であった。これらのポリープは主病変とともに切除範囲に含まれるべきと考え、口側に点墨マーキングを行った。一旦退院の上、ステント治療後38日目に待機的手術が行われた。上記2症例ともに観察には受動弯曲機能を有する細径スコープ(PCF-PQ260L)を使用することによりステント内の通過および深部挿入はいずれも容易で、観察に際して明らかな偶発症は認められなかった。
大腸ステント留置後の大腸内視鏡を用いた深部大腸観察は術前に多発病変の有無を確認することができ、口側の切除範囲の決定にも有用と考えられた。一方、migrationや穿孔には十分な注意が必要であり、観察には細径内視鏡が適しているものと思われる。今後はステント留置後の深部大腸における術前内視鏡治療などへの応用も期待される。
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Bridge to surgeryPalliative therapyにおける大腸ステント留置術の有用性と問題点
伊達赤十字病院 消化器科
1)、内科
2)、外科
3)
〇久居弘幸
1)、小柴 裕
1)、和田浩典
1)、岡川 泰
1)、嘉成悠介
1)、宮崎 悦
2)、前田喜晴
3)、佐藤正文
3)、川﨑亮輔
3)、行部 洋
3)、中島誠一郎
3)
【目的】根治切除不能悪性大腸狭窄症例に対するself-expandable metallic stent(SEMS)留置術の有用性と安全性について検討した。
【方法】対象は2001年4月~2013年1月に大腸SEMS留置を施行した71例のうち根治切除不能と診断されSEMSを留置した悪性大腸狭窄64例のべ90回(年齢37~101歳、平均74歳、M/F 37/27、原発性/続発性32/32、観察期間4~1076日、中央値118日)。狭窄長は3.7~16cm(平均7.1cm)で、初回留置SEMSは直腸膀胱瘻症例1例を除きすべてuncovered stentで食道用Ultraflex stent(Boston scientific) 45例、径20mm Niti-S biliary stent (Taewoong) 11例、Niti-S Pyloric/Duodenal stent 6例、WallFlex colonic stent(Boston scientific) 1例で、3例は2部位の狭窄に対し同日に留置した。33例は経肛門的イレウス管を挿入後に待機的に留置し、全例予防的抗菌薬投与を行い、留置前のバルーン拡張は施行しなかった。
【成績】1)手技的成功は98%(63/64)であったが、臨床的成功は84%(54/64)であり、原発性97%、続発性72%であった。MST、50%開存期間、6か月累積開存率は原発性で331日、366日、84%、続発性で44日、355日、80%であった。2) SEMS留置後化学療法は19例(30%)に施行し、胆管狭窄合併例に対し胆管ステント留置を8例に施行した。3)再閉塞を原発性9例のべ22回(ingrowth 9/overgrowth 7/肉芽1/便塊2)、続発性4例のべ6回(overgrowth 5/便塊1)に認め、再留置、アルゴンプラズマ凝固(APC)、洗浄で対処した。3)早期合併症 (30日以内)では迷入1、開存不良1、位置不良2、敗血症2、出血1、憩室炎1、肛門痛・持続便意5 (1例はAPCでSEMS切断)、後期合併症では出血4、原発性で脱落8(のべ10、うち化学療法施行例6例)、穿孔1(ステント留置522日目/Bevacizumab投与241日目)であった。
【結論】根治切除不能悪性大腸狭窄症例に対するSEMS留置術は緩和内視鏡治療のみならず集学的治療のひとつとしての普及が期待される。また、偶発症およびその対処法を念頭に置いての経過観察が肝要である。
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Bridge to surgery大腸ステント留置術後穿孔4例の検討
独立行政法人国立病院機構 呉医療センター・中国がんセンター 消化器科
○桑井 寿雄,山口 敏紀,山下 賢,保田 和毅,檜山 雄一,水本 健,木村 治紀,山口 厚,河野 博孝,高野 弘
当院で経験した大腸ステント留置後穿孔4症例について報告する.
【症例1】65歳,男性.S状結腸癌による7.7cmの狭窄に対し22mm×9cmのステントを留置した.当初は手術も考慮したが腫瘍の増殖が速く全身化学療法となった.FOLFOXにても効果をみとめなかったため,十分なICのもとFOLFIRI+BEVに変更したところ,留置後5か月目に穿孔をみとめた.緊急手術を施行したが,口側ステントの辺縁が正常粘膜に接触し潰瘍形成をみとめその部位の穿孔であった.
【症例2】85歳,男性.S状結腸癌による5cmの狭窄に対し,高齢で肺癌合併もありPAL目的で25mm×9cmのステントを留置した.ステント拡張は良好で留置後2日目より食事を開始し時々腹部膨満感を訴えていたが排便はみとめていた.留置後15日目に腹痛と血便をみとめCTにてステント留置部の穿孔が疑われた. PSも悪化しており手術希望もなく穿孔後7日目に永眠された.
【症例3】70歳,男性.2年半前に進行胃癌に対し外科的手術を施行したが腹膜播種再発をみとめた.それによりS状結腸に8cmの狭窄をみとめ,PAL目的で25mm×9cmのステントを挿入した.ステント拡張も良好で術後経過も順調であったが,留置後8日目に腹痛を訴え穿孔をみとめた.緊急手術を施行したが,腹腔内は播種で覆われ結腸の受動は困難で穿孔部の同定はできず処置は不可能でありドレーン留置のみで終了した.
【症例4】88歳,女性.上行結腸癌による9cmの狭窄に対し,高齢で進行胃癌の合併もありPAL目的で22mm×12cmのステントを留置した.病変は上行結腸から肝弯曲にかけて拡がり,横行結腸に壁外より直接浸潤をみとめ腸管の可動性は不良となっていた.ステント拡張も良好で術後経過も順調であったが,留置後9日目に腹痛をみとめCTにてステント留置部の穿孔が疑われた.手術希望なく穿孔後6日目に永眠された.
上記4例から,穿孔をきたした症例の特徴として,内径25mmステントの使用や,腫瘍により浸潤癒着が高度で腸管の可動性が失われている点などが挙げられた.しかしながらこの様に高度な浸潤をみとめる症例こそがステントを希望される場合も多く,症例ごとの慎重な適応検討が必要と考えられた.
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Bridge to surgery緩和治療目的の回盲部癌の1例
旭川厚生病院 消化器科
○後藤充、高橋慶太郎、立花靖大、佐藤智信、藤永明裕、森田康太郎、柳川伸幸、藤林周吾、斎藤義徳、折居裕、柴田好
症例は99歳、女性。基礎疾患に慢性心不全、慢性気管支炎、膝関節症などを有していた。特別養護老人ホームで生活していたが、H24年3月末に嘔吐と腹部膨満を認め前医を受診した。単純X線とCTで小腸の腸閉塞と診断し、イレウス管による減圧治療を行った。その後の造影検査で回盲部腫瘤が疑われ、4月初旬に当科へ紹介転院した。大腸内視鏡検査で回盲弁と一塊となった2型進行癌を認め、腸閉塞の原因となっていた。緩和治療として大腸ステントを留置することとした。
経鼻的に挿入されているイレウス管は癌性狭窄の近くまで到達していたため、ガストログラフィンによる造影で小腸側の確認を行った。さらにイレウス管からインジゴカルミンを混ぜた注射用水を注入し、大腸内視鏡で癌から流出してくる位置を確認することでガイドワイヤーを通過させることが可能であった。Through the scope法でWallflex Colonic Stent(径22mm 長さ6cm)を留置した。留置翌日から経口摂取を再開し、7日後には前医に再転院した。留置後11ヵ月経過し、再狭窄はなく経口摂取を続けている。
回盲部がステント留置困難な部位とされるのは屈曲があり狭窄を越えてガイドワイヤーを送ることが難しいことが大きな要因と考えられる。今回はあらかじめ挿入したイレウス管を有効に用いることで回盲部癌に対する大腸ステント留置が速やかに安全に施行可能であった。
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Bridge to surgery屈曲した腫瘍狭窄部に対するステント留置術の工夫
八尾徳洲会総合病院 消化器内科
1)、外科
2)
〇平川富夫
1)、牛丸裕貴
2)、鈴木大聡
2)、松岡信子
2)、垣本佳士
2)、村上修
2)、遠藤幸丈
2)、加藤恭郎
2)
【はじめに】H24年1月以後、本院にてBTSとして3例、姑息的治療として2例の大腸癌閉塞にステント留置術を施行した。閉塞部位は脾湾曲部1例、下行結腸2例、SDJ1例、直腸Rs1例であったが、SDJ閉塞に対する留置術は最も困難で、手技の工夫を要した。
【症例】既往歴のない72歳男性 、排便困難、腹部膨満にて初診し、Xp,CTにてS状結腸閉塞と診断した。受診当日に、経肛門的イレウス管を留置し減圧を試みた。腫瘍狭窄部内腔の方向に対して正面視に難渋し、CS H260から上部内視鏡QJ260に変更した。7時方向からのガイドワイヤー(以下GW)で口側に通し、イレウス管を留置した。狭窄長は約5.5cmで、ステント留置せず待機手術の予定であった。患者は安静指示が守れず歩行したところ、2日後イレウス管が自然脱落し、再び腹部膨満を訴えた。結腸再閉塞をきたし、同日緊急ステント治療を試みた。
【挿入手技】右側臥位、CO2送気下、CSH260で開始したが、腫瘍狭窄部は浮腫状で、GWを進めるべき方向の位置取りに難渋した。フード装着したGIF:QJ260に変更し、狭窄部をV字様のカーブとして造影しえた。GWとして0.025インチRevowave(先端アングル型、Piolax)を用い、介助者と協力した微細なGW操作で腫瘍狭窄部を突破した。口側にチューブを追随し、0.035インチGW(Visiguide、Olympus)に交換した。手技研究会のミニガイドラインを参考にOTW法でWallFlex9cm× 22mmを留置した。留置後のXpで狭窄部の直線化がみられ、口側腸管の良好な減圧がえられた。留置後、7病日に腹腔鏡下S状結腸切除術施行、術後10病日に退院した。
【工夫】1.狭窄部内腔の方向に対して正面視可能な内視鏡を選択する必要がある。2.屈曲した腫瘍狭窄部に対して、組織抵抗の低いGWを選択し、介助者と協力した微細なGW操作が必要である。
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Bridge to surgery
悪性大腸狭窄に対するSelf-Expandable Metallic Stent(SEMS)留置術の成績と困難例へのTrouble shooting
東京大学 消化器内科1)
○吉田俊太郎1)、伊佐山浩通、成田明子、山田篤生、斎藤友隆、高木馨、渡邉健雄、川畑修平、浜田毅、木暮宏史、佐々木隆、山本夏代、中井陽介、平野賢二、平田喜裕、多田稔、山地裕、小池和彦
【目的】 悪性大腸狭窄に対するSEMS留置における注意すべき病態を明らかにし、Trouble shootingを検討する
【方法】2006年2月から2013年2月にSEMSを留置した70症例の73病変(平均年齢 70.9歳、男女比42:28、大腸癌43、胃癌11、膵癌9、胆嚢癌2、十二指腸癌1、膀胱癌1、子宮頸癌1、腹膜癌1卵巣癌1)で、狭窄部位は左側39例で右側31例、原因は大腸癌42例、他癌腫による外因性狭窄28例であった。
【結果】施行目的は緩和的留置(palliative)54例、bridge to surgery(BTS)16例。73病変に対して使用したSEMSは、Niti-S stent uncovered type 40病変(42本)、WallFlex Colonic Stent 33病変(33本)。手技的成功98.6%、臨床的成功93.2%であった。臨床的成功が得られなかったのはKink3例、逸脱1例、で、Kinkは全例が外因性かつ屈曲部狭窄であり、脾彎曲部閉塞が2例であった。バルーン拡張および内腔へのステント追加留置を適宜行い、全例でKinkの解除に成功した。ステント閉塞および症状をともなった逸脱をeventとしたTime to dysfunction (TTD)はKaplan-Meier method で平均395日、平均生存期間は378日であった。留置後のstent閉塞は16病変で認められ、13病変が内視鏡的re-intervention(stent-in-stent 11病変、便塊除去 2病変)により再開通した(81.3%)。逸脱は5病変(6.8%)でみられ、3例が化学療法後の自然脱落で、2例は処置(内視鏡的ステント除去)を必要とし、そのうち1例はovertubeを用いてstentを回収した。
【考察】 悪性大腸狭窄に対するSEMS留置術は、姑息的、BTS双方に対し安全かつ有用である。しかし、外因性狭窄例ではTTDが短くなる傾向があり、かつ屈曲部狭窄(脾彎曲部)例では、Kinkが問題となることがわかってきた。また、留置後の閉塞や逸脱などのイベントの多くは、内視鏡にて対応可能と思われる。