抄録集
第3回大腸ステント安全手技研究会 学術集会

会   期:平成26年5月17日(土) 14:10~17:30
会   場:第7会場(福岡国際会議場 4階 409+410)
代表世話人:斉田 芳久(東邦大学医療センター 大橋病院 外科)
当番世話人:島田 守(医療法人 彩樹 守口敬任会病院 外科)

開会の辞
当番世話人:医療法人 彩樹 守口敬任会病院 外科 島田 守

I. 主題演題
司会 東京大学医学部附属病院 消化器内科 伊佐山 浩通
医療法人 彩樹 守口敬任会病院 外科 島田 守
1. 大腸ステント(WallFlex)多施設共同前向き安全性観察研究の短期成績
(発表12分 討論3分 合計15分)
名古屋第二赤十字病院 消化器内科 山田 智則
2. Niti-S大腸ステント多施設共同前向き安全性観察研究の進行状況について
(発表7分 討論3分 合計10分)
岸和田徳洲会病院 外科 冨田 雅史
3. ミニレクチャー
WallFlexとNiti-S大腸用ステントの留置方法の違いについて
(発表12分 討論3分 合計15分)
東京大学医学部附属病院 消化器内科 佐々木 隆、吉田 俊太郎、伊佐山 浩通、小池 和彦
4. 大腸ステント挿入時の手技についての各施設アンケート調査報告
(発表7分 討論3分 合計10分)
医療法人 彩樹 守口敬任会病院 内科1) 外科2)、倉本 貴典1)、島田  守2)
II. BTSにおける大腸ステントの有用性
(各演題 発表5分 討論2分 合計28分)
司会 東邦大学医療センター大橋病院 外科 榎本 俊行
5. 悪性大腸狭窄に対する大腸ステント留置症例の検討-bridge to surgeryにおける有用性
日本赤十字社和歌山医療センター 消化器内科1) 、外科2)
○石井 達也1)、三長 孝輔1)、野口 未央1)、川口 直2)、中井 智己1)、益田 朋典1)、松本 久和1)、東 俊二郎1)、籔内 洋平1)、太田 彩貴子1)、信岡 未由1)、岩上 裕吉1)、谷口 洋平1)、幡丸 景一1)、中谷 泰樹1)、赤松 拓司1)、瀬田 剛史1)、浦井 俊二1)、上野山 義人1)、山下 幸孝1)
6. 当院での大腸ステントBridge to surgeryの成績
独立行政法人 国立病院機構 相模原病院 外科
○細谷 智、金澤 秀紀、桑野 紘治、大越 悠史、根本 昌之、飯塚 美香、坂本 友見子、石井 健一郎、井上 準人、金田 悟郎
7. 当院における左側大腸癌イレウスに対するBridge to surgery目的の大腸ステントの治療成績
高知医療センター消化器外科1)、消化器内科2)
○寺石 文則1)、尾崎 和秀1)、公文 剣斗1)、石川 紋子2)、大西 知子2)、山田 高義2)、森田 雅範2)、志摩 泰生1)、中村 敏夫1)、西岡 豊1)
8. 大腸癌閉塞に対するBridge to Surgery -当院での経肛門的イレウス管とステントの比較-
名古屋第二赤十字病院 消化器内科
○藤田 恭明、山田 智則、柴田 俊輔 、鈴木 祐香、小島 一星、野尻 優、吉峰 崇、野村 智史、日下部 篤宣、蟹江 浩、坂 哲臣、林 克巳、折戸 悦朗
III. 大腸ステント挿入手技の工夫と合併症対策
(各演題 発表5分 討論2分 合計42分)
司会 がん・感染症センター 都立駒込病院 内視鏡科・消化器内科 小泉 浩一
国立病院機構横浜医療センター外科 齋藤 修治
9. Uneven Double Lumen Catheterを使用した大腸ステント留置術
川崎医科大学 総合内科学2
○後藤 大輔、河本 博文
10. 当院での大腸ステントに関わる穿孔例とその対策
君津中央病院 消化器内科1) 、外科2)
○藤本 竜也1)、畦元 亮作1)、吉田 有1)、今井 雄史1)、大和 睦実1)、稲垣 千晶1)、矢挽 眞士1)、妹尾 純一1)、亀崎 秀宏1)、山田 博之1)、大部 誠道1)、藤森 基次1)、駒 嘉宏1)、柳澤 真司2)、海保 隆2)、鈴木 紀彰1)、福山 悦男1)
11. 当院における内視鏡的大腸ステント留置術の手技と穿孔例の検討
独立行政法人国立病院機構 呉医療センター・中国がんセンター 消化器科
○桑井 寿雄、山口 敏紀、壷井 章克、山下 賢、保田 和毅、檜山 雄一、水本 健、山口 厚、河野 博孝、高野 弘嗣
12. 悪性大腸狭窄に対するSelf-Expandable Metallic Stent (SEMS)留置術後合併症に対するtroubleshooting
東京大学 光学医療診療部1),消化器内科2)
○吉田 俊太郎1)、成田 明子2)、伊佐山 浩通2)、佐々木 隆2)、太田 弓子2)、神宝 隆行2)、山田 篤生2)、浜田 毅2)、木暮 宏史2)、山本 夏代2)、中井 陽介2)、平野 賢二2)、平田 喜裕2)、小池 和彦2)
13. ステントを留置した狭窄性S状結腸がんの口側に認めた狭窄性横行結腸がんに対してステント留置を行った1例
国立病院機構横浜医療センター 外科
○齊藤 修治,山本 悠史,松木 裕輝,杉政 奈津子,稲垣 里紗、清水 哲也,松田 悟郎,関戸 仁
14. 多発悪性大腸狭窄に対するSelf-Expandable Metallic Stent(SEMS)留置術の成績
東京大学 消化器内科1)、光学医療診療部2)
○成田 明子1)、伊佐山 浩通1))、吉田 俊太郎2)、佐々木 隆1)、太田 弓子1)、神宝 隆行1)、山田 篤生1)、浜田 毅1)、木暮 宏史1)、山本 夏代1)、中井 陽介1)、平野 賢二1)、平田 喜裕1)、小池 和彦1)
IV. 大腸ステントの合併症症例
(各演題 発表5分 討論2分 合計28分)
司会 東邦大学医療センター大橋病院 消化器内科 前谷 容
15. 大腸ステント留置により口側腸管に穿通をきたした1例
がん・感染症センター 都立駒込病院 内視鏡科1)、消化器内科2)、外科3)
○田畑 拓久1)、小泉 浩一2)、桑田 剛2)、高橋 慶一3)
16. 大腸ステントの回腸内誤挿入を認めた1例
横浜栄共済病院外科
○加藤 秀明、栃本 昌孝、堀口 雄大、高橋 裕季、川口 雅彦、俵矢 香苗、渡邊 透、細川 治
17. 大腸ステント挿入早期にmigrationをきたし、外科的にステントを除去した進行大腸癌の1例
三重中央医療センター消化器科1)、三重中央医療センター外科2)
○亀井 昭1)、子日 克宣1)、竹内 圭介1)、渡邉 典子1)、草深 智樹2)、武内 秦司郎2)、信岡 祐2)、谷川 寛自2)、横井 一2)
18. 大腸ステント挿入後に微小穿孔が疑われた閉塞性S状結腸癌の一例
京都第二赤十字病院 消化器内科
○河村 卓二、藤井 康智、川勝 雪乃、和田 浩典、上田 悠揮、白川 敦史、岡田 雄介、真田 香澄、中瀬 浩二朗、萬代 晃一朗、鈴木 安曇、河端 秀明、盛田 篤広、宮田 正年、田中 聖人、宇野 耕治、安田 健治朗
特別講演
(講演45分 討論5分)
司会 東邦大学医療センター大橋病院 外科 斉田 芳久
19. Colonic stenting anno 2014
Academic Medical Center, University of Amsterdam, The Netherlands
Jeanin E. van Hooft, MD, PhD

閉会の辞
東邦大学医療センター大橋病院 外科 斉田 芳久

1
大腸ステント(WallFlex)多施設共同前向き安全性観察研究の短期成績

名古屋第二赤十字病院 消化器内科
○山田 智則

目的:2012年に保険収載された大腸用ステントの本邦での臨床使用経験を蓄積し、その有効性と安全性を評価するために大腸ステント安全手技研究会で多施設共同前向き安全性観察研究を行ったので、今回はその短期成績について報告する。
方法:主要評価項目は大腸ステントの臨床的有効性である。2012年5月15日から2013年10月11日までにデータを前向きに集積した。対象は大腸閉塞に対して大腸ステントを留置された各施設の全症例で、適応としては悪性大腸閉塞の術前処置BTSおよび緩和治療を必要とする患者である。本研究ではすべてWallFlexを使用した。すべての施設で倫理委員会の承認を受け、データは前向きにWeb上にて登録、集積した。技術的成功は狭窄部位への1回での適切なステント留置の成功した場合とし、臨床的成功は閉塞症状が解除された場合とした。
結果:参加施設は54施設、総登録数518症例のうち研究対象外であった8例を除外した510例を解析対象とした。BTS症例は305例(59.8%)、緩和治療が203例(39.8%)、留置目的不明が2例(0.4%)であった。副次的評価項目の技術的成功率は97.5%(497例/510例)、留置後1週間以内の閉塞は8例(1.6%)で、閉塞原因は、Ingrowth 1例、Kink 3例、Stool impaction 2例、不明2例であった。有害事象として、穿孔は7例(1.4%)、ステント逸脱は8例(1.6%)であった 。最終的な臨床的成功率は、95.2%(456/479例)であった。
結 語:大腸用ステントの本邦での臨床短期成績は導入初期から最小限の偶発症で高い臨床的成功率を示した。


2
Niti-S大腸ステント多施設共同前向き安全性観察研究の進行状況について

岸和田徳洲会病院 外科
○冨田 雅史

本邦では大腸狭窄に対する金属ステントは薬事認可も保険収載もなかったため限られた施設での臨床研究として行われていたが、2012年1月より保険収載され全国で急速に広まっている。大腸ステント安全手技研究会では先に薬事承認されたWallflex Colonic stentについて多施設共同安全手技観察研究を行ってきたが、今回新たに薬事承認されたNiti-Sステントについて多施設共同前向き観察研究を行い、有効性と安全性を検討する。Niti-Sステントは、axial force 低減を目的にnitinol合金を使用し、独自のダイヤモンド構造の網目としたものである。研究期間は、2013年10月11日から2015年10月10日までとし、全国の病院から200症例のデータを蓄積することを目標とする。適応は、悪性新生物によって生じた結腸・直腸閉塞の術前処置 (bridge to surgery; 以下BTS) および緩和治療を必要とする患者で、登録施設は研究終了までの対象症例を全例登録する。腸虚血・穿孔の疑いまたは切迫・腹腔内膿瘍/穿孔・良性狭窄・ 内視鏡手技を適用できない患者は、大腸ステント手技の適応外であり登録しない。主要評価項目は、大腸閉塞解除に関する臨床的成功率(臨床的成功症例数/登録数)とし、副次的評価項目は、技術的成功率(ステント留置成功症例数/ステント留置施行数)・観察期間中の閉塞率および閉塞原因・有害事象発生率・BTSにおける手術への影響(術後合併症発生率、入院期間)・生存期間とした。フォローアップ期間はBTS、緩和医療ともに12ヶ月間とし、期間内に手術(術後退院日まで)・死亡・ステント閉塞や再治療があれば調査終了とする。


3
WallFlexとNiti-S大腸用ステントの留置方法の違いについて

東京大学医学部附属病院 消化器内科
○佐々木 隆、吉田 俊太郎、伊佐山 浩通、小池 和彦

内視鏡的大腸ステント留置術が保険適応となり、わが国でも幅広く施行されるようになってきている。その適応は、bridge-to-surgeryを目的とした留置とpalliative caseに対する留置に大きく分けられ、それぞれで病態や狭窄状況も大きく変わってくる。また大腸閉塞においては、屈曲した部位に生じた狭窄に対してステント留置することもしばしば経験する。このように多彩な狭窄状況に対して適切にステントを選択するためには、ステントの特性を理解しておく必要がある。現在わが国で使用可能な大腸用ステントは、WallFlex colonic stentとNiti-S大腸用ステントの2種類である。この2種類のステントは構造自体が違うため、ステントの特性も自ずと異なってくる。そこで本ミニレクチャーでは、ステントの特性の違いを理解するために、動画を交えながら解説する。また実際の臨床例における留置のポイントや注意点についても、私見を交えながら解説する。


4
大腸ステント挿入時の手技についての各施設アンケート調査報告

医療法人 彩樹 守口敬任会病院 内科1)、外科2)
○倉本 貴典1)、島田 守2)

【背景】 WallFlex大腸ステントが2012年1月に保険収載され、2年近くが経過、2013年7月にはNiti-S大腸ステントも保険収載された。大腸テント安全手技研究会の前向き安全性研究症例登録も500例を超え、導入されている施設も増加している。
【目的】 施設間により挿入時の手技について、統一されておらず、その方法は様々である。今回、第3回大腸ステント安全手技研究会 学術集会の開催にあたり、各施設でのステント挿入時の手技や使用ガイドワイヤー等についてのアンケート調査を行い、報告する。
【方法】 当研究会所属施設を中心に、これまでの一般的なWallFlex留置を念頭に置いたアンケート調査を依頼し、20施設にご回答をいただいた。アンケートの主回答項目は、①挿入手技(内視鏡、ガイドワイヤー及びステントデリバリーシステム操作、透視台、外回り)にかかわる人員について、②使用する内視鏡の種類について、③TTS法の割合について、④ガイドワイヤーが狭窄を通過しない場合に内視鏡の変更する症例の割合について、および変更する内視鏡の種類や内視鏡変更症例時の挿入法について、⑤CO2送気の使用について、⑥狭窄部造影検査について、⑦最初に使用するガイドワイヤーの種類、サイズについて、⑧ガイドワイヤー挿入時にシース使用について、⑨ステント挿入後の口側大腸の観察施行について、⑩⑨の観察内容について、⑪BTS症例において術前の腸管洗浄について、の以上11項目である。また、各項目について手技の安全性の面から、重要と考え考えられる内容に関しては、さらに詳細なご意見をうかがった。
【結果および結語】 詳細な結果については会場にて報告するが、各施設間のステント挿入時の手技等に関する、新たな認識ができるよう企図する。

5
悪性大腸狭窄に対する大腸ステント留置症例の検討-bridge to surgeryにおける有用性

日本赤十字社和歌山医療センター 消化器内科1) 外科2) 
○石井 達也1)、三長 孝輔1)、野口 未央1)、川口 直2)、中井 智己1)、益田 朋典1)、松本 久和1)、東 俊二郎1)、籔内 洋平1)、太田 彩貴子1)、信岡 未由1)、岩上 裕吉1)、谷口 洋平1)、幡丸 景一1)、中谷 泰樹1)、赤松 拓司1)、瀬田 剛史1)、浦井 俊二1)、上野山 義人1)、山下 幸孝1)

【目的】大腸ステントのbridge to surgery(BTS)における有効性,安全性について検討する.
【対象】2012年5月以降に悪性大腸狭窄に対し大腸ステントを留置した38例のうちBTS目的に留置した26例を対象とした.対象の内訳は男性15例,女性11例,平均年齢72.6歳(42-91歳),閉塞部位は上行結腸/横行結腸/下行結腸/S状結腸/直腸S状部:3/5/4/13/1例であった.
【結果】26例(100%)にステントを留置できた.留置ステントはWallFlex 13例,Niti-S 13例,全て22mm径を使用し,長さは6cm 20例,9cm 6例(Niti-Sでは全例6cmを留置)であり,平均処置時間は32分(12-105分)であった.1例は留置時に穿孔が疑われCTで少量の腹腔内遊離ガスを認めたため緊急開腹術となった.経口摂取は留置後平均1.4日,穿孔例以外全例で開始できた.ステントの留置期間は平均19.9日(7-143日),穿孔症例も含めて全例で一期的手術を施行できた(腹腔鏡19例,開腹7例).進行度はStageⅡ/Ⅲa /Ⅲb /Ⅳ:5/7/5/9例であった.1例は初診時に癌性腹膜炎,多量腹水を認めたためステントを留置し化学療法を先行し留置143日目に一期的手術を施行可能となった.偶発症では,留置時の穿孔1例,留置後の穿通1例(留置20日後に緊急開腹手術,WallFlexの口側フレア部の潰瘍)を認めた.
【結論】大腸ステント留置は留置手技が簡便で処置時間も短く,比較的安全に留置可能であり,術前の腸管減圧,患者のQOLの維持に有効な治療法といえるが,穿孔例も経験しており注意が必要である.当院ではBTS症例においてはaxial forceが小さくフレアのないNiti-Sステントを第一選択とし,22mm径,6cm長が最適と考えている.

6
当院での大腸ステントBridge to surgeryの成績

独立行政法人 国立病院機構 相模原病院 外科
○細谷 智、金澤 秀紀、桑野 紘治、大越 悠史、根本 昌之、飯塚 美香、坂本 友見子、石井 健一郎、井上 準人、金田 悟郎

2011年7月に米国製の大腸用ステントの薬事認可が承認され,2012年からは保険収載の上で,大腸ステントが使用可能になった.当院では2012年10月より大腸癌患者のイレウスに対し,大腸ステントを使用し始め,Bridge to surgery(BTS)に19例,姑息的治療として4例に行った.留置の際には大腸ステント安全留置のためのミニガイドラインに則り,大腸悪性狭窄に伴う腸閉塞の解除の目的に行っており,直腸は適応外とし,回盲部の狭窄は造影を行い,ステントを留置できるか判断している.使用ステントはボストン・サイエンティフィック社製ウォールフレックス大腸用ステント(21例)または,センチュリーメディカル株式会社製Niti-S大腸用ステント(2例)を用いサイズは設置時に狭窄長を測定し決定している.留置後,狭窄部を造影し穿孔の有無を確認している.処置後は充分な経過観察を行い,翌日に単純レントゲン写真でステントの位置を確認している.イレウスが解除されれば速やかに経口摂取を開始し手術までは1週間以上空けている.ステント留置に伴う合併症としては,保存的治療で改善した出血を1例で認めたが,穿孔1例,migration1例,狭窄1例を認めた.BTSを行った19例のうち,上行結腸癌2例,横行結腸癌2例,下行結腸癌3例,S状結腸癌11例,直腸癌(RS)1例で全症例に腹腔鏡下手術を行う事が出来た.術後合併症は,創感染1例,縫合不全1例,腸閉塞1例であった.術後SSIを発症した1例を除き,術後6~10日で退院しており,ステントを必要としない症例とほぼ同等の成績を得られている.当院で行った大腸癌イレウスに対する大腸ステント留置術において,多くの症例においては良好な成績が認められた.しかしながら,一部では穿孔や縫合不全が認められた.今回は合併症を発症した症例を提示し検討を行う.


7
当院における左側大腸癌イレウスに対するBridge to surgery目的の大腸ステントの治療成績

高知医療センター消化器外科1)、消化器内科2)
○寺石 文則1)、尾崎 和秀1)、公文 剣斗1)、石川 紋子2)、大西 知子2)、山田 高義2)、森田 雅範2)、志摩 泰生1)、中村 敏夫1)、西岡 豊1)

【目的】当院における左側大腸癌イレウスに対するBTS目的の大腸ステントの治療成績について検討した。
【対象・方法】2012年10月から2014年2月までにBTS目的にWallFlexTM大腸ステントを留置した左側大腸癌11例について治療成績およびステント留置に関連する合併症を中心に検討した。
【結果】年齢66歳(55-91)、男性8例、女性3例、腫瘍占拠部位は下行結腸3例、S状結腸4例、直腸S状部3例、Ra 1例、腫瘍長径5.8cm(4.0-8.0)であった。10例で22×60mmのステントが使用され、全例over-the-wire法で挿入されていた。ステント挿入時間は24分(10-38)、ステント挿入時の偶発症はなかった。ステント留置から手術までの待機時間は5日(3-18)、術式は開腹手術10例、腹腔鏡手術1例、2例で人工肛門造設を要した。手術時間は147分 (117-329)、出血量164mL(15-1100)、リンパ節郭清はD1 1例、D2 3例、D3 7例であった。術後合併症は3例(27.3%)に発生し、表層性SSIが2例、神経因性膀胱とイレウスが1例ずつみられたが、縫合不全はなかった。最終病期はStageⅡ 4例、Ⅲa 3例、Ⅳ 4例であった。ステント留置部の病理所見として浮腫性変化が3例、びらんが4例、潰瘍が3例にみられたが、あきらかな穿通は1例も認めなかった。術後在院日数は13日(10-68)であった。
【まとめ】BTS目的の大腸ステント留置は全例で偶発症なく留置されていたが、ステント留置部にびらんや潰瘍が形成されることもあるため、当院ではステント留置後に減圧できれば、可能な限り早期に手術を行っている。

8
大腸癌閉塞に対するBridge to Surgery -当院での経肛門的イレウス管とステントの比較-

名古屋第二赤十字病院 消化器内科
○藤田 恭明、山田 智則、柴田 俊輔、鈴木 祐香、小島 一星、野尻 優、吉峰 崇、野村 智史、日下部 篤宣、蟹江 浩、坂 哲臣、林 克巳、折戸 悦朗

【背景と目的】
大腸癌閉塞に対する内視鏡的腸管減圧術は、待機手術を可能(BTS)とし有用な治療法であり、本邦で発展してきた経肛門的イレウス管と2011年に保険収載された大腸ステントがある.しかし、両者の有用性と安全性について比較検討した報告は少ないため、今回検討した.
【方法】
2007年から2013年9月までに当院で手術された原発性大腸癌のうち、急性大腸閉塞に対して経肛門的イレウス管を留置した66例(年齢中央値68歳、男女40/26、部位 R/S/D/T=10/29/12/15)と大腸ステントを留置した12例(年齢中央値72歳、男女比8/4、部位 R/S/D/T/A=1/2/5/2/2)を対象に、有用性(手技および臨床成功率、腹腔鏡手術率)と安全性(留置関連偶発症)を後ろ向きに検討した.
【結果】
経肛門イレウス管の手技成功率は93.9%、臨床成功率は86.4%で、腹腔鏡下手術が48.5%に施行された.イレウス管留置から手術までの期間中央値は16日であり、その間4.5%に穿孔を認めた.大腸ステントの手技成功率、臨床成功率は100%で、腹腔鏡下手術が91.7%に施行された.ステント留置から手術までの期間中央値は19日であり、穿孔は認めなかった.
【結論】
経肛門イレウス管、大腸ステントいずれも大腸癌閉塞のBridge to surgeryとして高い成功率と、安全な一期的手術を可能とする有用な治療である.
また、ステントは減圧後に全結腸を内視鏡的に観察および処置が可能となる.

9
Uneven Double Lumen Catheterを使用した大腸ステント留置術

川崎医科大学 総合内科学2
○後藤 大輔、河本 博文

【背景・目的】当施設では大腸ステント留置術に際し,消化管造影,ガイドワイヤー留置に,先端が3cmの段違いになったERCP用カテーテルのUneven Double Lumen Catheter(UDC)を用いている.今回UDCによる利点を供覧し,当施設の治療成績を検討する.
【方法】大腸ステントはWallFlex Colonic Stent(Boston Scientific社製),Niti-S Enteral Colonic Stent(Taewoong Medical社製)を用い,全例through-the-scope法で留置した.X線透視下に大腸内視鏡を行い狭窄部位を視認後,UDC先端から造影し狭窄が直線的な症例はUDCで狭窄突破しガイドワイヤーを口側に留置した.一方,狭窄や屈曲が強い症例はガイドワイヤーを先行し,UDCの側孔から造影しながらwire-guidedに口側へ挿管した.更に屈曲が強くintroducer挿入が困難な症例は,ガイドワイヤーを2本留置し剛性を担保した後にステントを留置した.
【対象】2012年1月から2013年9月までに当施設で大腸ステント留置した悪性大腸狭窄症例.
【成績】上記期間のステント留置例は18例(男性9例),年齢は中央値76歳.原疾患は大腸癌14例,肝門部胆管癌腹膜播種2例,膵癌2例.術前減圧目的の一時的留置(Bridge to surgery:BTS)は7例,姑息的留置は11例.BTS例は留置後全例で一期的根治切除術を行った.姑息的留置例は留置後に全例退院可能であった.全例ステント留置に成功し,手技時間は中央値22分.造影先行例は8例(44%),ガイドワイヤー先行例は10例(56%),また3例(17%)で屈曲が強くガイドワイヤーを2本使用したが全例スムーズにステント留置可能であった.留置後は全例自覚症状の改善を認め,1例を除きCROSS scoreの改善を認めた(摂食率94.4%).早期合併症に腹痛3例,発熱1例を認めたが,穿孔や出血等の偶発症,手技関連死亡例はなかった.晩期偶発症は腫瘍のingrowthを1例認めた.
【結論】留置困難が想定される大腸ステント留置例ではUDCが有用と考える.

10
当院での大腸ステントに関わる穿孔例とその対策

君津中央病院 消化器内科1)、外科2)
○藤本 竜也1)、畦元 亮作1)、吉田 有1)、今井 雄史1)、大和 睦実1)、稲垣 千晶1)、矢挽 眞士1)、妹尾 純一1)、亀崎 秀宏1)、山田 博之1)、大部 誠道1)、藤森 基次1)、駒嘉 宏1)、柳澤 真司2)、海保 隆2)、鈴木 紀彰1)、福山 悦男1)

当院では、悪性大腸閉塞に対して食道ステントを代用して留置を試みた際に大きな穿孔を起こした経験があるため、Through-the-scope法にて留置可能となった現在、その有用性をより実感し積極的に施行している。しかし、その後も穿孔症例は存在しており、症例提示とその対策について報告する。症例は、2012年3月から2014年1月までに大腸ステント留置術を施行した94例中、穿孔を起こした3例(3.2%)。[症例1:閉塞孔の誤認によるワイヤー穿孔とステント誤留置]65才男性・SDJ口側病変。閉塞孔を誤認しワイヤーを誤誘導した後にそのままステントを留置。イレウスが改善しないためCT施行したところ、腸管外への留置と判明し緊急手術。穿孔部が狭窄部肛門側であったため、便汁の腹腔内への流出がなく、重症化は見られなかった。(対策)閉塞孔の同定を慎重に行う。フード装着や浸水下観察、細径ファイバーの使用を考慮。[症例2:狭窄部とワイヤーの軸ずれによるワイヤー穿孔]75才女性・S状結腸病変。屈曲・狭窄が強くワイヤーと狭窄部の軸がずれ、腰のある0.035Jagwire®にて探ったため穿孔が発生。カテーテルで造影した際に腸管外への漏出が明らかとなり緊急手術を施行。(対策)狭窄が強い場合には柔軟で細いワイヤー(当院では0.025アングル・レイリッシュ®)を使用。先端U字型として突破することを考慮。[症例3:ベバシズマブ(Bev)併用化学療法下での穿孔・逸脱]70才男性・S状結腸癌・多発肝転移・腹膜播種症例。Bev+FOLFOX3コース終了後に逸脱・穿孔を発症。全身状態が悪く手術困難であり、第30病日に永眠。(対策)Bevは使用しない。同じく血管新生阻害作用のあるレゴラフェニブについても要注意。


11
独立行政法人国立病院機構 呉医療センター・中国がんセンター 消化器科

がん・感染症センター都立駒込病院 消化器内科1),大腸外科2)
○桑井 寿雄、山口 敏紀、壷井 章克、山下 賢、保田 和毅、檜山 雄一、水本 健、山口 厚、河野 博孝、高野 弘嗣

内視鏡的大腸ステント留置術は保険適応となって2年が過ぎ多くの施設で施行されるようになってきた.今回我々は当院での内視鏡的大腸ステント留置術の手技を提示し,さらに経験した穿孔4例について検討した.
【基本的手技】当院では透視下で内視鏡操作役,デリバリー操作役,そしてステントリリース役の3人で必ず施行するようにしている.CF-H260AIを使用し病変到達後ガストログラフィン造影で全体像を把握する.次に病変肛門側にクリップでマーキングした後,内視鏡的に狭窄部を確認する.ERCP用カテーテルを用いて少しずつ狭窄部を造影し,同定された管腔にガイドワイヤーを慎重に挿入して狭窄を突破する.ガイドワイヤーはできるだけ口側まで挿入しTTSにステントデリバリーを挿入する.内視鏡とともに透視でマーカーを確認しながら慎重にステントをリリースするが,内視鏡操作が困難な部位では透視を頼りにするようにしている.留置後から飲水許可とし48時間後より食事開始としている.
【穿孔例の検討】当院では2011年11月から2014年1月まで47病変46症例に対し内視鏡的大腸ステント留置術を施行し,穿孔を4例経験している.4例ともPAL目的であり,原疾患は大腸癌3例と胃癌の播種1例であった.部位はA/C 1例,S/C 3例で,使用したステントは内径25㎜を2例で使用しており,長さは9cmが3例,12cmが1例であった.穿孔発生までの期間は留置後一か月以内が3例であったが,留置後化学療法を施行した1例は約5か月後であった.また,3例で腫瘍が一塊となるなど浸潤癒着が高度で腸管の受動性が失われている状態であった.以上より穿孔症例の特徴として,内径25mmで狭窄長に対し長めのステントを使用した症例,腸管の受動性が失われている症例,化学療法 (特にBevacizumab) を留置後併用した症例などが挙げられた.

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悪性大腸狭窄に対するSelf-Expandable Metallic Stent(SEMS)留置術後合併症に対するtroubleshooting

東京大学 光学医療診療部1)、消化器内科2)
○吉田 俊太郎1)、成田 明子2)、伊佐山 浩通2)、佐々木 隆2)、太田 弓子2)、神宝 隆行2)、山田 篤生2)、浜田 毅2)、木暮 宏史2)、山本夏代2)、中井陽介2)、平野 賢二2)、平田 喜裕2)、小池 和彦2)

【目的】 悪性大腸狭窄に対するSEMS留置術における合併症と、それに対するtroubleshootingを検討する。
【方法】2006年2月から2014年2月までに、当院にて悪性大腸狭窄に対してSEMSを留置した97症例の103病変(年齢 69.1±12.7歳、男:女 56:41、大腸癌57、その他悪性疾患40例)における、SEMS関連合併症に対する内視鏡的対処法を検討した。
【結果】合併症は、穿孔 1病変(0.97%)、閉塞 23病変(22.3%)、逸脱 6病変(5.8%)であった。閉塞の原因は、ingrowth 9病変、overgrowth 1病変、kink 11病変、stool impaction 2病変。閉塞解除のため、内視鏡的処置は20病変(87%)に施行され、そのうちstent-in-stentでのSEMS留置は13病変、バルーン拡張手術は4病変、内視鏡でのcleaningは3病変であった。2例で人工肛門造設術が施行され、1例は保存的加療となった。追加SEMS留置症例において、技術的成功は100%、臨床的成功84.6%であった。逸脱症例の内、2病変でSEMSが口側に逸脱したため、内視鏡およびオーバーチューブを用いてSEMSを安全に回収した。
【考察】悪性大腸狭窄に対するSEMS留置術による合併症に対して、stent-in-stentでのSEMS留置術を含めたtroubleshootingの検討が今後必要となる。

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ステントを留置した狭窄性S状結腸がんの口側に認めた狭窄性横行結腸がんに対してステント留置を行った1例

国立病院機構横浜医療センター 外科
○齊藤 修治、山本 悠史、松木 裕輝、杉政 奈津子、稲垣 里紗、清水 哲也、松田 悟郎、関戸 仁

 症例は92歳男性.主訴:便秘、腹痛、嘔吐.1週間前からの便秘,3日前からの腹痛,朝からの嘔吐を主訴に当院救急科を受診.腹部は緊満し圧痛あり.緊急単純CTでは,小腸の拡張は認めないものの,S状結腸の壁肥厚およびその口側の全結腸の拡張および便貯留を認め,緊急入院.入院後には下痢便排泄はあり.大腸内視鏡検査(CS)にて,S状結腸に狭窄を伴った全周性腫瘍を認めPCFスコープは通過不能であった.ステント留置目的に外科に紹介され,透視下に再度CSを施行.腫瘍狭窄長は45mmであり,Niti-S 80mm長/22mm径ステントを留置した.ステント留置当日から飲水開始し,その後に全粥摂取まで可能となった.ステント留置第20病日にステント口側結腸精査目的にPCFを用いてCSを行なったところ,左側横行結腸に狭窄あり.同日,透視下に再度CSを施行. Niti-S 18mm径ステントの院内在庫がなかったため、22mm径ステント留置目的にH260AIスコープを使用.横行結腸狭窄は2cm長であり,Niti-S 60mm長/22mm径ステントを留置した.横行結腸のステント留置後第12病日に口側結腸精査目的にPCFを用いてTotal CSを施行した.

患者は超高齢の上,高度の拘束性換気障害を合併し,さらに栄養状態不良であったため栄養状態改善を待つあいだ一旦退院となった.今後,腹腔鏡下結腸左半切除術を行う予定である.

閉塞性大腸がん症例では,多発の大腸腫瘍を合併することをしばしば経験するため,BTS時には術前に口側大腸の評価も大切だと考えている.しかし,留置したステント部にスコープを通すことは,穿孔やステント逸脱の危険性が考えられ賛否は分かれている.今回,ステントの口側にも閉塞性大腸がんを認めたことより,ステントを通しての口側病変へのステント留置を行った症例を経験したので報告する.


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多発悪性大腸狭窄に対するSelf-Expandable Metallic Stent(SEMS)留置術の成績

東京大学 消化器内科1)、光学医療診療部2)
○成田 明子1)、伊佐山 浩通1)、吉田 俊太郎2)、佐々木 隆1)、太田 弓子1)、神宝 隆行1)、山田 篤生1)、浜田 毅1)、木暮 宏史1)、山本 夏代1)、中井 陽介1)、平野 賢二1)、平田 喜裕1)、小池 和彦1)

【目的】同時多発悪性大腸狭窄に対するSEMS留置術の成績と問題点を明らかとする。
【方法】2006年2月から2014年2月に悪性大腸狭窄に対してSEMSを留置した97症例の103病変(年齢 69.1±12.7歳、男:女 56:41、大腸癌57、胃癌19、膵癌12、胆嚢癌2、卵巣癌2、十二指腸癌1、膀胱癌1、子宮頸癌1、腹膜癌1、脂肪肉腫1)の中で、同時多発大腸狭窄を認めた6例(6.2%)を対象とした。
【結果】施行目的は全例緩和的留置であり、疾患は胃癌3例、膵癌1例、大腸癌1例、卵巣癌1例。多発狭窄を認めた症例では、留置前検査として大腸内視鏡下造影検査もしくは注腸検査を全例に行い、狭窄部位を確認した。また、必要であれば十二指腸ゾンデを用いた小腸造影も追加した(6例中4例で施行)。全例が2狭窄であり、同日留置を行ったのは3例であった。2例はover-the-wire methodを使用した。全例で技術的成功が得られたが、2例で留置直後にstent kinkが生じたためCRE Wireguided Balloon Dilators (18-19-20mm) にて拡張術を追加した。そのうち1例は拡張されなかったため追加SEMS留置を行った。臨床的成功は全例で得られ、全例が固形食の摂取が可能となった。開存期間中央値は93.5日(21-459)で、合併症として2例で留置部口側へのステント逸脱をみとめ、経肛門的にオーバーチューブを挿入し回収可能であった。
【考察】同時多発悪性大腸狭窄に対するSEMS留置術は、計画的な術前評価を行った上で施行することで安全で有用な治療選択肢の一つとなり得る。ただ、留置適応の判断基準やステント逸脱などの合併症に対する対処法の検討が必要である。

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大腸ステント留置により口側腸管に穿通をきたした1例

がん・感染症センター 都立駒込病院 内視鏡科1)、消化器内科2)、外科3)
○田畑 拓久1)、小泉 浩一2)、桑田 剛2)、高橋 慶一3)

 症例は68歳,男性。2013年7月,便秘を主訴に近医を受診し,CT検査でS状結腸癌による腸閉塞と診断され,当院に緊急入院となった。大腸内視鏡検査ではS状結腸(AV 40cm)に全周性狭窄を伴う2型進行癌を認めた。内視鏡透視下にガストログラフィン造影を行うと狭窄長は約4cmで,BTS目的に大腸ステント(Wallflex Colonic Stent 22mm/6cm)を留置した。ステント留置後、閉塞症状は速やかに改善し、第3病日より食事摂取を開始した。腹部単純写真では明らかなステント逸脱は認めず,待機的手術の方針で一時退院となった。その後,腹痛や発熱などは認めず,ステント治療後16日目に低位前方切除術を施行した。術中,S状結腸を受動する際に一部腹膜を合併切除した。切除標本の肉眼所見ではステント留置部より口側の腸管に約2.5cmの裂創が認められ,漿膜側では合併切除された4cm大の腹膜組織と癒着していた。組織学的には固有筋層は完全に断裂し,合併切除された腹膜組織へと穿通し,線維性に癒着していた。

本症例において口側腸管に裂創を生じた要因として,ステント留置部がS状結腸の高度屈曲部に位置していたこと,および手術までの待機期間が16日とやや長期間であったことなどが挙げられる。Wallflex Colonic Stentの強いAxial Forceにより口側腸管に持続的な機械刺激や血流障害が生じた可能性が考えられた。したがって,高度屈曲部に対してはよりAxial Forceの弱いステントを選択すべきと考えられた。また,本症例のようにステント留置後に明らかな自覚症状がない場合でも穿通をきたしている場合があり,ステント留置後は可能な限り待機期間を短くし手術を行うことが妥当であると考えられた。


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大腸ステントの回腸内誤挿入を認めた1例

横浜栄共済病院 外科 
○加藤 秀明、栃本 昌孝、堀口 雄大、高橋 裕季、川口 雅彦、俵矢 香苗、渡邊 透、細川 治

症例は90歳,男性.主訴は貧血.既往歴として不整脈,腎不全を認めた.現病歴,2014年1月に貧血(Hb 4.2g/dl)を認めて内科入院.CROSSスコアは2.下部消化管内視鏡検査で肛門縁から19cmのS状結腸に2型全周性の進行大腸癌を認めた.内視鏡の通過は不可能で,1/27に大腸ステント留置(Niti-S stent 9Fr, 18mm×60mm)を行った.留置操作は透視下に行い,腫瘍口側にガイドワイヤーを通過させた後にシースを使用して造影検査を行った.腸管外への造影剤の漏出は認めず,特に困難なく留置を遂行した.Bridge to surgery目的に1/29に当科転科.下血,腹痛,発熱は認めず,5分粥摂取は良好であった.第7病日に術前精査としてCT-colonography検査を施行した.小腸と大腸の拡張は良好であったが,腫瘍付近は腸管拡張が不十分な部分を認め,ステント留置部位の明確な腸管辺縁の確認が困難であった.その後も,便回数の増加や発熱,腹痛は認めなかった.第10病日に,大腸ステントを留置したS状結腸癌に対して待機的に腹腔鏡手術を施行した.S状結腸と回腸(回腸末端から40cm)の癒着を認め,S状結腸癌と癒着した回腸を一塊として摘出した.切除標本で,S状結腸癌の小腸浸潤とステントの小腸内誤挿入を認めた.2型,tub1,SI(回腸),N2,D3,cur A,s-stageⅢbと診断した.術後経過は良好.保険収載後,大腸ステント挿入症例が増加するに伴い,特殊症例の対処に困る事例も増加すると考えられる.本症例ではステント留置後の臨床症状に異常はなかったが,挿入ステントが瘻孔を通過し,見過される場合もあるので注意が必要である.


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大腸ステント挿入早期にmigrationをきたし、外科的にステントを除去した進行大腸癌の1例

三重中央医療センター消化器科1)、三重中央医療センター外科2)
○亀井 昭1)、子日 克宣1)、竹内 圭介1)、渡邉 典子1)、草深 智樹2),武内 秦司郎2)、信岡 祐2)、谷川 寛自2)、横井 一2)

(はじめに)2012年1月より大腸用Self-Expandable Metallic Stent(SEMS)が保険適応となり、症例の蓄積に伴う穿孔migration等の合併症の報告が散見される。今回大腸ステント挿入早期にmigrationをきたし、外科的にステントを除去した進行大腸癌の1例を経験したので報告する。(症例)59才女性、右下腹部痛にて当院受診。単純CTにて盲腸から回腸終末部の著明な拡張と、上行結腸の狭窄を認めた。上行結腸癌による大腸狭窄と考え、緊急大腸内視鏡検査を施行した。上行結腸に壁不整を伴う内腔狭窄を認め、大腸ステント(Niti-S 22mm径、10cm長)を挿入した。挿入2日後より排便を認め、腹痛は消失した。その後施行した造影CTにてステントの横行結腸へのmigrationを認めた。2週間ほど経過をみていたが、ステントは移動しなかった。主病変の切除及び停留したステント除去の目的で手術を施行した。ステントは横行結腸中央部に達しており、その肛門側から回腸末端20cmまでの拡大右半結腸切除を行った。組織はMucinous adenocarcinoma、深達度ssであった。ステントの停留していた部位に穿孔はなかったが、meshによる潰瘍とmicroabcess及びpseudopolypsの形成を認めた。(まとめ)大腸ステントのmigration症例を経験した。migrationしたステントが自然に肛門まで移動するケースが多いようであるが、挿入早期にmigrationした場合は停留した部位でステントが開いて永久的に留まる可能性がある。外科手術の際、病変の切除(右半結腸切除)に加えて停留したステント部位の横行結腸の追加切除を行った。病理学的にステント挿入部位に穿孔は認められなかったが、長期的なステントの停留が臨床的に問題となる可能性は否定できず、migrationに対する対応の検討が必要と考えられる。


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大腸ステント挿入後に微小穿孔が疑われた閉塞性S状結腸癌の一例

京都第二赤十字病院 消化器内科
○河村 卓二、藤井 康智、川勝 雪乃、和田 浩典、上田 悠揮、白川 敦史、岡田 雄介、真田 香澄、中瀬 浩二朗、萬代 晃一朗、鈴木 安曇、河端 秀明、盛田 篤広、宮田 正年、田中 聖人、宇野 耕治、安田 健治朗

症例は71歳女性で、左下腹部痛を主訴に当院を受診し、腹部エコーにて肝両葉に多発する腫瘍とS状結腸の強い壁肥厚を認め精査加療を目的に入院した。腹部CTではS状結腸の限局性壁肥厚の部位より口側に多量の便貯留を認め、S状結腸癌による閉塞が疑われた。大腸内視鏡では肛門縁より約40㎝のS状結腸に2型の進行癌を認め、内視鏡の通過は不可能であった。Boston Scientific社製Wallflex Colonic Stent(外径22㎜/ステント長9㎝)を内視鏡下に挿入した。ステント挿入当日より頻回の便通があり経過良好であったが、第3病日より39度台の発熱が出現した。血液検査上も強い炎症反応を認めたが、腹部の圧痛・反跳痛はなく、ステント挿入後の敗血症を疑いこの時点より抗生物質の点滴投与を開始した。抗生剤投与後、炎症反応は改善傾向にあったが、微熱が持続するために第9病日に腹部CTを再検したところ、腸管外の微小遊離ガスが疑われた。症状が軽微であったため保存的に経過観察とし、第16病日に開腹S状結腸切除術+D2リンパ節廓清術を施行した。腫瘍は漿膜への露出を認めたが他臓器への明らかな浸潤はなく、肉眼的な穿孔所見も認めなかった。摘出標本の粘膜面にはステントの口側・肛門側いずれの部位にもステントによる物理的刺激に起因すると考えられるびらんを認めた。同部位の漿膜面には肉眼的に問題はなかったものの、組織学的には漿膜下層にも軽度の炎症細胞浸潤を認め、微小穿孔を起こしていたとも考えうる組織像であった。以上、大腸ステント挿入後に高熱をきたし、微小穿孔が疑われた一例を経験したので報告する。


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Colonic stenting anno 2014

Jeanin E. van Hooft, MD, PhD,
Academic Medical Center, University of Amsterdam, The Netherlands

Learning objectives:
  • Getting familiar with the current evidence on the clinical indications of colonic stenting
  • Acquiring an insight in the role of a colonic stent on the oncological perspectives
  • Realize which general and technical considerations are of importance for the stent placement procedure
  • Learn about the adverse events that can occur and how to treat them

The use of colonic stenting to alleviate colonic obstruction has evolved over the past decades. Their applications have extended from the management of palliation of inoperable obstructing colonic cancer to acute malignant colonic obstruction, and for treatment of benign colonic strictures.
Colonic stenting is supposed to have several advantages over surgery. In the acute obstruction it would give way to improve the patient’s clinical condition to allow for elective surgery (also referred to as ‘bridge to surgery’) and to accurate tumor staging, so surgery in patients with incurable disease or those with an unacceptable surgical risk could be prevented. In addition, regardless of the indication, it has further potential benefits like a decreased mortality, morbidity, number of temporary and permanent colostomies and hospital stay. By now several randomised trials and meta-analysis have confirmed colonic stenting to be associated with higher primary anastomosis and lower overall stoma rates. However, colonic stenting did not reduce morbidity and mortality. Three randomised trials were even terminated prematurely because of a high number of complications in patients treated with a colonic stent (mainly perforations) and resection specimens showed ‘silent perforations’. Perforations, both overt and silent, may have important clinical consequences because of perforation-related mortality and potential tumour dissemination.

Considering the aforementioned the clinical indication for colonic stenting has to be reconsidered. Should colonic stenting as a bridge to elective surgery be applied for all comers or only for those with an increased operative risk like elderly patients? And what about patients in a palliative setting that are considered to be treated with anti-angiogenic therapy like bevacizumab, shouldn’t they be treated different given the high risk of stent-related colonic perforation?

This lecture will focus on the new insights on the indication for colonic stenting. In addition the consequences of colonic stenting on oncological treatment and outcome will be highlighted. But also more practical issues like general and technical considerations regarding the stent placement procedure will be debated as well as how to treat adverse events related to colonic stenting. The actual aim is to provide an up-to-date practical guideline on colonic stenting based on an extensive search of the current literature.