大腸ステント安全留置のポイント
(2019.11.15 改訂)
1 | 適応時期:腸閉塞発症症例はできるだけ早期に導入を検討する。(腸閉塞発症から時間が経過すると患者の全身状態の悪化だけでなく、腸管の浮腫や炎症から脆弱化し偶発症のリスクが高くなる可能性がある。また大量の便塊が貯留するとステント内腔を便塊が通過せず腸閉塞解除が困難になる可能性がある。また閉塞性腸炎の危険性も高まる) |
2 | 透視室および大腸内視鏡の準備の下で行うことが望ましい。 |
3 | 大腸内視鏡は大口径(3.7mm)のチャンネル(鉗子孔)を有する機種を用意する。(オリンパスQ240IやH260AI、HQ290L/Iなど)(ただし、Niti-S 18mmは9Frのデリバリーシステムなので通常径の鉗子孔でも対応している) |
4 |
内視鏡はできるだけCO2送気下での施行が望ましい。 (留置手技中に口側腸管に過度のエアーが流入して口側の腸管、特に盲腸が穿孔することを防止するため) |
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狭窄の肛門側に金属クリップでマーキングをする。できるだけステントの伸展方向とは異なる部位(Rsであれば前壁)にクリッピングする。 (ステントの伸展で圧迫されると穿孔する可能性があるため) |
6 |
良好な視野を確保するため生検などの処置は必要最小限にする。 (出血すると狭窄した内腔がわかりにくいため) |
7 | ガイドワイヤーを狭窄部の口側に十分に送り込んでからステント留置を行う。 |
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狭窄通過のガイドワイヤーは細め(0.025inchまたは0.035inch)のものを使用し、補助にシース(ERCPカニューラ)を使用する。 挿入困難例では先端可動式のカニューラ(SwingTip(オリンパス)やTRUEtome™(ボストン))を使用する。 (東大 伊佐山先生のコメント:ガイドワイヤーによる穿孔を避けるには、できるだけ先端をループ状にして狭窄を突破することが重要である。先端で探っていくときはラジフォーカスやナビガイドなどの柔らかい親水性のものを使用し、腸管外に出ていないかをレントゲン像で確認しながら行い、少しでもおかしいと思ったらカテーテルを追従させないようにする。最近では最初から先端がループ状になっているガイドワイヤーがPiolaxから発売されている。またカテーテルでは、ガイドワイヤーが入ったまま造影が可能なダブルルーメンタイプが有用である。) ガイドワイヤーが通過しにくい場合には内視鏡への先端アタッチメント装着や細径内視鏡または上部消化管用内視鏡への変更を検討する。 |
9 |
ガイドワイヤーが狭窄部を通過したら、シースを口側に送り込め、かならず造影する。(腸管内腔にガイドワイヤーがあることの確認と狭窄の長さを測定する) (私は先にオリンパスの洗浄チューブ(PW-6P-1)を狭窄部に挿入し狭窄部位を確認後にガイドワイヤーを挿入しています。狭窄部の造影ができていればガイドワイヤー挿入時の目安になるので穿孔が少なくなると考えています。:守口敬任会病院 島田 守) |
10 | 留置前バルーンやブジーでの拡張は行わない。(大腸腫瘍は割れやすく・穿孔の危険性が高いので) |
11 | ガイドワイヤーを狭窄部の口側にできるだけ腸管に沿って屈曲・反転せずに十分送り込んでからステント留置を開始する。 |
12 | ガイドワイヤー挿入時に出血などで視野が悪くなったら鉗子孔を通して洗浄するか、一旦撤退する。不良な視野では決して無理はしない。 |
13 | ステント外筒挿入時にはガイドワイヤーを軽く引きながら腸管を直線化しつつ挿入する。 |
14 | ステントはやや口側まで挿入してからステントを徐々に拡張させ、デリバリーシステムや内視鏡を引きながら正確な場所に留置する。 (各々のステントで特徴があるのでWallFlex Colonic StentとNiti-S大腸用ステントの違いについてなどを参考に) |
15 |
留置後の深部内視鏡観察は慎重に。少なくとも留置直後のステントを超えての挿入はステント逸脱の可能性があるためしない。ステントを超えての深部内視鏡挿入は留置後数日経過の後に行う。細径の内視鏡(9.2mm径のPCF-PQ260など)でループ解除を出来るだけ避け(腫瘍が腹壁などに浸潤して固定されている可能性があるため)愛護的な操作を心がける。深部での内視鏡処置(EMRやESD)ではステント部位に負担がかかることに十分に留意する。 (駒込 小泉先生のコメント:ループを作らない挿入が出来れば優先、ループを作っても解除せずゆっくりpush。これを実現するには細径で柔らかいlong scopeのPCFPQが最適と考えます。いずれにしても腹満・違和感ではなく、疼痛を訴える場合は無理せずgive upと考えています。) |
16 | 手技終了後、透視や胸部単純X線検査などで遊離ガス像(腸管損傷)がないこと確認する。 |
17 | 手技時には短期の抗菌薬投与を行う。 |
18 | 留置後も経時的な腹部単純X線検査や診察などで経過を観察する。 |
19 | 留置前後の化学療法や放射線療法の適応は慎重に。理論的に化学療法や放射線療法で腫瘍が縮小すれば常に穿孔の可能性があるためである。2012年12月付の厚生労働省・ 医薬品・医療機器等安全性情報でもステント留置前に放射線療法又は化学療法を施行している患者への消化管ステントの適用は慎重に行うように勧告がでている。とくに ステント留置後に投与すると穿孔のリスクが高まるとの報告が非常に多いベバシズマブ(アバスチン)は使用しないほうが良い。またおなじ血管内皮細胞増殖因子(VEGF) の受容体(VEGFR)の阻害薬である、大腸癌に対するレゴラフェニブ(スチバーガ)、アフリベルセプト(ザルトラップ)や胃癌に対するラムシルマブ(サイラムザ)などもステント留置後の投与に関しても慎重になる必要がある。 |
20 | 予防的な留置は決して行わない。臨床症状がない症例や細径の内視鏡が通過できるような狭窄に留置した場合には、migrationのリスクが高くなる。また常に穿孔のリスクもあるので予防的な留置は推薦出来ず、狭窄が強くなり自覚症状が発現した際に留置を検討すべきである。 |
21 | 留置時に使用する水溶性造影剤ガストログラフィンは50%程度に薄めた方がガイドワイヤの視認性が向上し、鉗子孔が造影剤で固まるのを軽減できる。 |
22 | 2020年からが多くの種類の大腸ステントが使用可能となります。やや固いステントや完全カバーされたステントなど各々のステントの特徴を本ミニガイドライン内の展開動画などを参考に十分理解した上で、各病態に合わせた安全な使用に留意してください。 |
手術と同様に、患者・家族に対して口頭の説明とともに、同意説明書を取りかわすことは全例必要である。また静脈を確保し輸液を行う。疼痛のない場合はsedationを行わない。
医療従事者は、内視鏡治療のできる医師と助手、看護師、放射線技師の最低4名が安全な施行のためには必要である。また施行場所は、内視鏡施行可能な透視室である。下記�@-�Dが準備すべき機器類である。
① | 内視鏡:電子内視鏡、その他、ガスコン水、輸液、モニター、ディスポーザブル注射器など内視鏡治療に必要なもの |
② | 水溶性造影剤(ウログラフィンなど)、内視鏡用止血クリップ:マーキング用 |
③ | ガイドワイヤー:狭窄通過用の細く柔軟なガイドワイヤー(0.025inchのラジフォーカス・ガイドワイヤー、テルモ社製やJagwire、ボストン社製など)を用意する。OTW(over the wire)法の場合にはSEMSデリバリー用に太く硬めのガイドワイヤー(0.035inchのJagwire、ボストン社製やアンプラッツエクストラスティッフワイヤー、クック社製など)追加で用意する。 |
④ | シース:狭窄をガイドワイヤー通過させるためのもの。ERCPカニューラやディスポーザブル金属クリップの外筒など透明なもの |
⑤ | SEMSのセット:SEMSとデリバリーシステム。TTS(trough the scope)タイプのSEMSが主流、口径20mm程度のもの、長さは狭窄の長さに合わせる必要があるが、主に10cm前後のものを用意しておく。逸脱に備えて2-3本は用意しておく。 |
SEMSの種類により留置法は異なるので各SEMSの説明書を熟読し十分に理解しておく必要がある。
はじめに大腸内視鏡で狭窄部肛門側に金属クリップにてマーキング、内視鏡よりシースを通し細いガイドワイヤーを挿入し狭窄部より十分口側に進める。その後、TTSでは内視鏡下にSEMSを直接挿入、OTWでは狭窄部に太いガイドワイヤー挿入後に内視鏡抜去、ガイドワイヤーに沿ってSEMSを挿入する。マーカーでSEMSの位置を確認後各々のSEMSのリリース法に従いself expandingさせる。最後にSEMSの位置、出血穿孔などの合併症のないことを確認。SEMS留置手技では、ガイドワイヤー挿入時の穿孔が最も多い偶発症である。視野の確保に注意しながら愛護的な操作をこころがける。
SEMS留置成功率は約9割で、留置が可能であればほぼ全例で良好な減圧が可能である1)。姑息的留置の場合、留置期間は10〜406日、平均114日間の長期留置が可能である2)。術前留置では、SEMS留置群での緊急手術群に比較して術後合併症が減少すると報告されている3)。
SEMS留置時の偶発症は、穿孔率5%、migration率 3%であり、留置後では穿孔率4%、migration率10%、再閉塞率が10%、死亡率が0.5%である1,3)。SEMS留置時にバルーンによる拡張を行うと穿孔の危険性が高いので注意が必要である1)。
文献
1) | Khot UP, Wenk Lang A, Murali K, et a1: Systematic review of the efficacy and safety of colorectal stents. Br J Surg 2002; 89: 1096-1102 | |
2) | 斉田芳久、炭山嘉伸、長尾二郎、他:悪性大腸狭窄に対する姑息的大腸ステント挿入術一自験例17例を含む本邦報告94例の集計と検討.日本大腸肛門病会誌2006; 59: 47-53 | |
3) | Saida Y, Sumiyama Y, Nagao J, et a1: Long-term prognosis of preoperative "bridge to surgery" expandable metallic stent insertion for obstructive colorectal cancer; comparison with emergency operation. Dis Colon Rectum 2003; 46(10 Suppl): S44-S49 |