WallFlexTM Colonic StentとNiti-S大腸用ステントの違いについて

☆WallFlexTM Colonic StentとNiti-S大腸用ステントの違いについて

東京大学消化器内科    佐々木  隆、吉田  俊太郎、伊佐山  浩通

悪性大腸狭窄に対する内視鏡的大腸ステント留置術については、2011年7月にWallFlexTM Colonic Stent(ボストン・サイエンティフィック・ジャパン株式会社)がわが国で最初に薬事承認され、2012年1月より保険収載された。その後2013年7月からはNiti-S大腸用ステント(センチュリーメディカル株式会社)も保険収載され、使用するステントの選択肢が増えてきている。本稿では、WallFlexTM Colonic StentとNiti-S大腸用ステントの違いについて、私見も交えながら考察する。

インデックス
1.ラインアップ
2.ステントの構造の違いに伴うステントの特性の違いについて
1)編み方の違いによる長軸方向への伸び縮み
2)展開時の違い
3)腸管への負荷
3.各ステントの留置方法の一例(机上実験)
4.各ステントの留置方法の一例(臨床例)
5.各ステントの主な特性のまとめ
6.結語


1. ラインアップ

WallFlexTM Colonic Stentはナイチノールワイヤーをらせん状に編み込んだ自己拡張型ステントで、口側端はフレア形状となっており、肛門側端はループエンドになっている。ステント径およびステント長の違いにより、6種類ある(ステント外径 22mm, 25mm、ステント長 6cm, 9cm, 12cm)。


Niti-S大腸用ステントは、ナイチノールワイヤーが網状に交互に手編みされた自己拡張型ステントである。本ステントは、フレアもループエンドもない。ステント径およびステント長の違いにより、8種類ある(ステント外径 22mm, 18mm、ステント長 6cm, 8cm, 10cm, 12cm)。



2. ステントの構造の違いに伴うステントの特性の違いについて

1)編み方の違いによる長軸方向への伸び縮み

WallFlexTM Colonic Stentは針金をらせん状に巻いていく形をとっているため、長軸に引っ張るとステントが延びる形状をしている。それに伴い約50%のshorteningがある。その半面、ステント留置時に少し引っ張ることで、肛門側の留置位置の微調節が可能である。ただしステントを引っ張って延ばしすぎると拡張力が急激に低下し、ステントの内腔が保たれなくなる可能性があるため注意が必要である。また延ばした状態で屈曲部に留置すると、途中で折れてしまうことがある。ただし、再収納機能がついているため、途中までの展開であれば再収納が可能である。

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Niti-S大腸用ステントは針金を交互にかみ合わせるように編まれている。そのため、shorteningは約25%程度であまり気にならない。一方で長軸方向に引っ張っても、隣の針金で固定されるためほとんど長軸方向には延びてくれない。そのためステント留置途中で引っ張っても、ほとんど微調節はできない。また長軸方向に押し付けて留置してしまうと、内腔がギザギザになってしまう。なお、Niti-S大腸用ステントには再収納機能はついていない。

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2)展開時の違い

WallFlexTM Colonic Stentはらせん状に針金が編まれているので、面で開いていくイメージである。そのため狭窄部にあてがった際に、それほど口側にもっていかれる感じはない。一方でNiti-S大腸用ステントはセル毎に展開していくため、緩い狭窄部ではそれほどではないが、きつい狭窄部にあてがった際には、口側にもっていかれる感じがある。そのためきつい狭窄部にあてがった所で、引きのテンションをかけて留置する必要がある。

ステント展開
WallFlex
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Niti-S
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3)腸管への負荷

WallFlexTM Colonic Stentはaxial force(まっすぐになろうとする力)が強いため、ステントが直線化しやすい。そのため屈曲部に留置した際に両側端が腸管壁にあたってしまい、長期留置する際には穿孔のリスクとなる可能性がある。またワイヤーをらせん状に巻いているため、先端の力を全体で吸収する形になるが、狭窄部でステントが固定されるため、ステント先端の力が十分に吸収されない可能性がある。

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Niti-S大腸用ステントはaxial forceがほとんどないため、屈曲した部分でも十分になじんでくれる。また両側端が腸管壁に当たった場合も、各セルがクッションのような役割をしてくれるため、腸管壁への力を分散させてくれる。

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3. 各ステントの留置方法の一例(机上実験)

WallFlexTM Colonic Stentでは少し奥でフレアを開いて、フレアが十分に開いたら全体を引いてきて狭窄部にあてがう。その後はステントをあまり引っ張りすぎないように注意しながら展開する。ステント留置終盤で肛門側が少し足りない場合には、少し引っ張ることで微調整が可能である。もしステント肛門側が足りないと思われた場合には、途中までの展開であれば、再収納機能を用いて留置を最初からやり直すことも可能である。

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Niti-S大腸用ステントではフレアがないため、留置予定位置でそのままステントを展開するイメージとなる。なお狭窄がゆるい場合はそれほど問題にはならないが、狭窄がきつい場合には、ステント展開がちょうど狭窄まで来た際に引きのテンションをかけないと口側にステントがもっていかれるので注意が必要である。またNiti-S大腸用ステントは留置直後の拡張力がやや弱く、ステント内腔がギザギザしているため、デリバリーシステムを抜去する際に先端チップがひっかかることがあるので注意が必要である。もしひっかかる場合には、デリバリーシステムの外筒を再度戻すことで先端チップとの段差をなくしてから全体を抜去するようにするとひっかからなくなる。

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4.  各ステントの留置方法の一例(臨床例)

WallFlexTM Colonic Stentは透視下での認識もしやすく、また留置途中での微調整もつきやすいため留置は比較的しやすい。特に直線部での留置はとてもやりやすい。屈曲部に留置する際には、引っ張りすぎるとステントの拡張力が低下して時に折れてしまうこともあるため、注意が必要である。ステント留置直後の拡張力も比較的良好である。

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Niti-S大腸用ステントは屈曲部にも無理なく留置が可能である。ただし留置自体はWallFlexTM Colonic Stentよりもむしろ難しい印象がある。WallFlexTM Colonic Stentと比較してワイヤーが細いため、透視下でステントが見えにくい。フレアがないため、全体を引っ張って狭窄にあてがうこともできない。またステント留置途中での位置調整もきかず、再収納機能もないため、ゆとりあるステント選択が望ましい。例えば狭窄長2cmの場合、両側端に2cmのりしろを作るとすると、留置予定長は6cmとなる。Shorteningが約25%なので、ステント長は8cm。少しずれる可能性を見越して10cmのステントを選択する。また播種症例など狭窄長が長い場合には2本のステントを直列につなげることも考える必要がある。その際注意が必要なのは、必ず口側から順番にステントを留置する。またガイドワイヤーは必ずステント留置が完成するまで引いてはいけない。万が一抜けてしまって1本目のステントを越えてガイドワイヤーを進めないといけない場合、1本目のステントのメッシュの間にガイドワイヤーが紛れ込んでしまう危険性がある(Niti-S大腸用ステントは留置直後の拡張力がやや弱いため、留置直後のステント内腔はギザギザした状況にある。そのためガイドワイヤーをきれいに内腔に通すのは時に難しいことがある。万が一ステントのメッシュ内にガイドワイヤーが進んでしまったことを認識せずに2本目のステントを留置してしまうと大変危険な状況に陥る可能性がある)。

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☆Niti-S大腸用ステントの留置の注意点と対策
・ワイヤーが細いため、透視で見えにくい。
・フレアがないので、狭窄部でのひっかかりが弱い。
・狭窄部では引きのテンションをかけないと口側にもっていかれるが、引きすぎるとずれてしまう。
・ステント留置途中での微調整はきかない。
・再収納機能がないため、やり直しがきかない。
→ 腸管への負荷が少ないため、長めのステントを選択する。

5.  各ステントの主な特性のまとめ

 WallFlex Colonic StentNiti-S大腸用ステント
ステント長6, 9, 12 cm6, 8, 10, 12 cm
フレアありなし
ステント内腔(留置直後)なめらかやや凹凸あり
拡張力(留置直後)ありやや弱い
Shorteningあり(約50%)多少あり(約25%)
透視での見やすさ見やすいやや見にくい
展開時面で展開Cell毎に展開
展開時に前方に飛ぶ感じあまりなしあり
留置終盤の微調整多少なら可能不可能
再収納途中までであれば可能不可能
直線化しやすさ直線化しやすい直線化しにくい
腸管への負荷やや強い弱い


6.  結語

WallFlexTM Colonic StentとNiti-S大腸用ステントの違いについて、私見も交えながら考察した。大腸ステント留置術を施行する前には必ず使用するステントの添付文書を読み、ステントの実際の使用方法を十分に理解したうえで手技に臨んでいただきたい。また大腸ステント安全手技研究会ホームページ内にある「大腸ステント安全留置のためのミニガイドライン」も参照していただき、より安全な大腸ステント留置に心掛けて頂ければ幸いである。



2013年10月29日作成